編集部が注目している書き手による単発エッセイ連載「DIARIES」。今回はエッセイ『宇宙人の部屋』で、アルコール依存症に苦しむ「A」と「K」との回復までの日々を綴った小指さん。傷つきながら生きのびてきた小指さんたちを待っていた、かけがえのない境地とは?

 私には、これまでいくら迷惑をかけられても憎めないでいるふしぎな連中がいる。
 もう長い付き合いになる「A」と「K」という男たちだ。

 今から17年前、私が10代の頃に「A」と出会って一緒にバンドをするようになった。
 このAが筋金入りの酒飲みで、起きたら酒、どこへ行くにもまず酒……と、まるで水を飲むように酒を飲む人だった。おまけに酒が異常に強く、いくら飲んでも顔色一つ変えなかった。

 そんな飲んだくれのAにも一つだけ信条があり、それは「ギターを弾いてる時だけは絶対に酒を飲まない」というものだった。だが、いつの間にかそんな決まりもなかったかのように酒を飲んでライブするようになり、演奏後も朝まで飲んで、すっかり出来上がったところを私が引っ張って連れ帰るというのが日常になっていた。あの頃のことを後から聞くと、どうやら手指の震えが止まらず飲まないとギターも弾けなくなっていたらしい。Aはそんなことも誰にも言わず、一人静かに酒に溺れていった。

 そうした生活を続けているうちにAの酒癖は坂道を転がり落ちるように悪化し、泥酔しては人に絡み、暴言を吐いて暴れたり、時には理由も分からず怒り狂ってコンビニの店内をパンツ一枚で走り回ったりと、どうかしてるとしか思えない奇行をとるようになっていった。だが、この時の私はまだ「Aがアルコール依存症かもしれない」とは夢にも思っていなかった。まだ20代半ば、早すぎると思っていた。

 その後、ますます酒で荒んでいくAに耐えられなくなった私は逃げ去るようにAから離れた。そして「K」と出会い、“少し変わっているけど優しい人だ”なんて油断して蓋を開けてみたらなんと彼もまたAをも凌ぐ酒癖の悪さだった。呆れられるだろうが、次に付き合った人も酒乱だったのだ。
 普通は懲りるだろう。だが、私は別れるどころか彼らの世話を焼くようになった。Aとも既に別れ、お互いもう恋愛感情など1ミリも残っていないただの友人になっていたにもかかわらず、飲酒のトラブルが絶え間なく耳に入ってくるのでどうしても放っておくことができなかったのだ。こうして私は、二人が酒を飲まないよう監視をするようになった。

 二人はほぼ毎日、何かしら問題を起こした。Aが酒で面倒ごとを起こしたら次はK、Kがまたどこかで倒れていると耳にすれば次はA……とキリがなく、彼らを一人にさせると何が起こるかわからないという恐怖心で、私の神経が休まる日はなかった。私がそんなことをしていたから、よりこじれて面倒なことになってしまっていたのかもしれない。だが、二人とも今にも目を離したら死んでしまいそうで、そうしないではいられなかったのだ。

 連絡が途絶えた彼らを探しに行くと、街路樹の植え込みにはまっていたり、大きな車道のど真ん中で荷物をすべて投げ出して豪快に寝ていることもあった。そして私は、ブツブツ言いながらもそんな彼らを背負って連れ帰るのだった。
 起きたらちゃんと自分の布団で寝ていた日を、彼らはどう思っていたのだろう? これがもし赤の他人だったら、私は警察から人命救助で感謝状の二枚や三枚送られていてもおかしくなかっただろう。だが、残念なことに当の本人たちはいつも何一つ覚えていなかった。

 こうやって本人の代わりに勝手に飲酒の尻拭いをしてしまうことは「イネイブリング(依存を助長させる行為)」という。私は彼らを助けたいと言いながら、実は依存を続けられる環境をつくっていたのだ。

 こうした関係がまずかったとやっと気づいたのは、Aが大怪我を負ってついに「アルコール依存症」と診断された時だった。
 内心やっぱりと思いながらも、「依存症」と認めることは心が引き裂かれる思いだった。ネットで調べると、大抵「不治の病」「廃人」「寿命が短い」なんて書いてあるからだ。この時初めて自分たちの置かれた状況を認識し、「自分の手だけでどうにかしようと思ってたら、次こそ彼らを死なせてしまうかもしれない」と恐怖を覚えた。

 その頃から私は、依存症についての本を読んだり、『AA(アルコホーリクス・アノニマス)』や家族会といった自助グループへ足を運ぶようになった。そうした場所へ通うようになってわかったことは、「アルコール依存症=死」ではなく、20年、30年と断酒を続けて元気そうにしている人たちが案外たくさんいる、ということだった。

 その後は色々ありながらも、友人の精神保健福祉士さんに助けてもらったり、最終的に良い病院にも繋がれたりして、私たちはなんとか今日までなんとか生きのびてこれた。そして、“依存症”という存在と向き合った自分たちの17年間の記録を『宇宙人の部屋』という一冊の本にまとめたのだった。

2024.03.06(水)
文=小指