本田 結局、「両方やります」という結論を出したんです。制作時期は重ならないので、本当に両方出来ると思っていました。

 それでも庵野さんには、僕から話をしなくてはいけないと思ったので「話をする時間をください」と言っていたのですが、時間が取れないとプロデューサーに言われたまま、気づけば半年が経ってしまいました。2017年の6月になって、ようやく庵野さんと会えたのですが、もう鈴木さんとの話し合いが済んでいたのか、「本田さんの好きなようにすれば?」と。長年「エヴァ」に時間を捧げた者としてはちょっと残念な反応でした。

 

「全編、手描きでやる」

 当時の僕は50歳を目前にして、後々になっても、自分で見返すことができる代表作を残したいという思いを強く持っていました。アニメーターとして無理がきかなくなる年齢に差し掛かり、ここらで気合の入った作品をやりたかったんです。

 アニメーション制作は時間の制約があることが多く、なんとか納期に間に合わせるってことが最優先になってしまう。だから作品を見返すと、「時間があれば、もっと違うふうに描けたのにな」と思ってしまうことがあります。真に納得できる作品ってなかなかないんです。それが嫌で、これまでの自分の作品を見返すことは多くありませんでした。

 もし、胸を張ることができる作品を作るなら、最もこだわりのある“手描き”のアニメーションしかない。『君たち』の企画書には、「全編、手描きでやる」と書かれていて、その宮﨑さんの思いには、僕もアニメーターとして共感しました。作画監督としての話だったので、自分の好みの絵でやることもできます。

 6月の庵野さんとの面会の後、『シン・エヴァ』のあらゆる会議から外されてしまったので、決意も固まって、鈴木さんに「両方をやるわけにはいかないから、こちらをやります」と伝えました。『シン・エヴァ』の方は「キャラクターデザイン原案」としてクレジットされましたが、作品は観ていません。

2024.01.26(金)
出典元=月刊「文藝春秋」2023年9月号