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アキ・カウリスマキ監督が6年ぶりに描く「“敗者”の幸福」

 互いを信じること。自分自身を信じること。アキ・カウリスマキ監督が6年ぶりに発表した『枯れ葉』もまた、そんな強い信念に貫かれた映画だ。

 フィンランド、ヘルシンキで、スーパーでの職を失い途方に暮れるアンサと、肉体労働をしながらトレーラーハウスに住むホラッパ。経済的にギリギリの生活をしている二人は、ある日偶然出会い、恋に落ちる。だが不運なすれ違いと、ホラッパが抱えるアルコール依存症の問題が、彼らを幸福から遠ざける。

 『マッチ工場の少女』(90)をはじめ、カウリスマキはもともと、社会のなかで「敗者」と呼ばれる者たちの現実を冷徹なまなざしで映してきた監督だ。だがある時期から、その先にある幸福を描くようになった。どれほど社会に虐げられ、不運によってすべてを失おうと、人々は必ず立ち上がり、ハッピーエンドへと向かっていく。どんな人たちにも必ず幸福になる権利があるのだと、カウリスマキは信じはじめたようだ。

 あまりにもまっすぐなラブストーリーである『枯れ葉』もまた、いくつもの回り道を経て、やがて幸福へと至る。社会のなかでどれほど不利な立場に追い込まれようと、自分を信じ、相手を信じ抜くことできっと何かを変えられる。その最後の希望を失ってはいけない。祈りにも似た声が、画面を通して聞こえてくる。

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Column

映画を見る、聞く、考える

映画ライターの月永理絵さんが、毎回ひとつのテーマを決めて新旧の映画をピックアップ。さまざまな作品を通して、わたしたちが生きる「いま」を見つめます。

2023.12.30(土)
文=月永理絵