この記事の連載

 映画ライターの月永理絵さんが、新旧の映画を通して社会を見つめる新連載。第2回となる今回のテーマは「声をあげる」ことについて。

 現在公開中の映画『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』と『燃えあがる女性記者たち』から紐解きます。


実話を基に描かれる「被害女性」へのゾッとする眼差し

 これは間違っている、何かがおかしいと感じた人々が声をあげる。自分の受けた被害を訴え、組織や政府の不正を告発する。たったひとりの勇気ある声によって、正義はなされる。けれど実際に声をあげた人たちには想像以上に重い負担がのしかかることを、私たちは忘れてはいけない。

 ジャン=ポール・サロメ監督の『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』は、世界最大のフランス原子力発電会社アレバ社の労働組合代表を務める、モーリーン・カーニー(イザベル・ユペール)の実話を基に描かれた社会派サスペンス。

 モーリーンは、ある日、アレバ社が中国の企業との間で秘密裏に契約を進めていることを知る。契約が結ばれれば、フランス側から技術が流出し、数万人の失業者が出るのは間違いない。危機感を抱いた彼女は、独自に入手した契約書のコピーをもとに内部告発を決意、経営陣と対立することに。

 何があっても引こうとしない彼女に、経営陣たちは怒り、脅迫めいた言葉すらぶつけ始める。どうやらアレバ社と中国企業との秘密契約の裏には政府の要人も関わっているようだ。不穏な気配が高まるなか、ついに事件が起きる。自宅に一人でいたモーリーンは、家に侵入してきた何者かによって性的暴行を受けてしまう。

 恐ろしい暴行事件に、誰もが内部告発との関連を疑う。だが、ここからの展開が恐ろしい。

2023.10.24(火)
文=月永理絵