ディープな音楽ファンであり、漫画、お笑いなど、さまざまなカルチャーを大きな愛で深掘りしている澤部渡さんのカルチャーエッセイ連載第7回。今回は25歳以下のお笑い芸人が競い合うという、新しいお笑いの賞レースの審査員をやったときのお話です。

 どういう訳かお笑いの賞レースの審査員をやらないか、というオファーが来た。25歳以下のお笑い芸人が競い合う大会だという。M-1グランプリの応募資格が結成15年以内の芸人になって久しいが、実力のついてきた結成10年以上の芸人の台頭が目立つ中、若くて勢いのある、ラジオでも活躍できるような芸人を発掘したい、というのがテーマとしてあるようで、大会の概要にも共感し、ものすごく悩んだが引き受けることにした。5年前なら断っていたと思う。しかし、今は2023年であり、私もCDデビューから13年が経った。音楽業界にM-1があるなら、スカートは結成から数えると、もう出ることができない17年という時間が過ぎている。戸惑う理由はあっても、断る理由など最早ないように思えたのだった。私も中堅と言われる立場になったということだ。それを受け入れ、後進に対して、自分のことなど棚に上げてその棚の上からものを言う立場になろう、と腹を決めたが、それが音楽ではなくお笑いになるとは人生とは難しいものだわね。

 今回オファーを受けた「UNDER 25 OWARAI CHAMPIONSHIP」は、25歳以下のお笑い芸人たちが競い合う、ニッポン放送とSLUSH-PILE.が主催する新しい賞レースだ。お笑いはこの「UNDER 25 OWARAI CHAMPIONSHIP」も含め、賞レース乱立の時代が到来していて、いい部分も悪い部分もあるが、純粋に若手が注目される機会が増える、という点はうらやましく思う。ロックやポップ・ミュージックにはもう随分賞レースに該当するものがない。あっても若手がフェスへの出演権をかけたオーディションのようなもので、かつてはヤマハのポプコン(ポピュラーソングコンテスト)やイカ天(イカすバンド天国)のような、前者なら楽曲の良さ、後者ならそれに加えてキャラクターや姿勢を評価するようなコンテストがあった。昨今のフェスへの出演権をかけたそれは少し性質が違うものだろう。しかし、現在のお笑いの賞レースの性質としてはポプコンやイカ天が近い気がする。もし私の若い頃に25歳まで出られる音楽の賞レースがあったとしたらどうしただろうか。今とは違った未来があってもいいと思う。

 自分の22歳から25歳ぐらいの頃を思い出してみる。今から13年前から10年前だ。2010年は在学中から作っていた『エス・オー・エス』をリリースした年で、2013年といえば『ひみつ』というCDをリリースして、実家を出て友人たちとシェアハウスを始め、「音楽で暮らしていけるかも」と淡い期待を抱いた年だ。人生における立志編、あるいは純情編の期間といったところだろうか。散らかった部屋の中、不安と音楽だけがそばにある、そんな日々だった。

2023.11.23(木)
文=澤部 渡
イラスト=トマトスープ