大会の主題歌を書くことに…

 審査員のオファーを受け、しばらく経ったある日、「せっかく審査員にスカートの澤部さんがいるのだから、大会のテーマとして新曲を書き下ろしてもらえないか」という打診が来た。正直、審査員のオファーより、戸惑い、なんなら断りたかった。世の賞レースの音楽は「勇ましく」「スケールが大きく」「対抗心を煽る」ようなものがほとんどで、私の音楽にはそれらの要素がほぼない。だからこそ「正気か!?」とも思ってしまったのだが、打ち合わせをしてみると大会側も正気だったし、考えも近く、平たく、拡大解釈で言うと「勇ましく」「スケールが大きく」「対抗心を煽る」音楽を使うような大会ではないので、せっかくだしスカートに頼みたいということだった。

 制作はもちろん難航した。打ち合わせを経てこちらに残ったお題のようなものはほとんどなく、打ち合わせのメモにはSLUSH-PILE.の代表、片山勝三さんが発言した「若手芸人のネタを初めて観る時の『こいつらひょっとしてすごいことやるんじゃないの?』みたいに期待する感じがとても好き」という言葉と、「知らないことを知るっていう『予感』」という言葉の走り書きだけが有効に思えた。つまりはいい曲を書いてほしい、というオファーだ!

 真夜中のリハーサルスタジオに通い詰め、ギターを持ち、コロナ禍で経験したスランプが信じられないぐらいあらゆるメロディのスケッチが出来上がった。メロディが湧き上がってくる喜びを噛み締めながら、それらを紡いでいく。そうすると今度は「果たしてこれは“大会”にふさわしい曲なのか……?」と疑心暗鬼になり、すごい速度でボツになっていった。それを何度も繰り返し、結局最初に作ったスケッチに立ち返り、最終的な形が仕上がった。いつものスカートだと言ったらそれまでだが、片山さんの言葉をヒントにして書いた歌詞も相まって広がりがあるような曲になった気がしている。

 緊張しながら決勝戦当日を迎えた。大会が始まったときに新曲『期待と予感』が使用されたヴィデオが上映された。若き芸人たちのあいだを『期待と予感』がすり抜けていくような内容で、私は密かに感動していた。この感動がどこから来たのかはまだわからない。迷いながら曲を作り上げて、その結果が間違ってはいなかったと気づけたことなのかもしれない。

澤部 渡(さわべ・わたる)

2006年にスカート名義での音楽活動を始め、10年に自主制作による1stアルバム『エス・オー・エス』をリリースして活動を本格化。16年にカクバリズムからアルバム『CALL』をリリースし話題に。17年にはメジャー1stアルバム『20/20』をポニーキャニオンから発表した。スカート名義での活動のほか、川本真琴、スピッツ、yes, mama ok?、ムーンライダーズのライブやレコーディングにも参加。また、藤井隆、Kaede(Negicco)、三浦透子、adieu(上白石萌歌)らへの楽曲提供や劇伴制作にも携わっている。2022年11月30日に新しいアルバム『SONGS』をリリースした。
https://skirtskirtskirt.com/

Column

スカート澤部渡のカルチャーエッセイ アンダーカレントを訪ねて

シンガーソングライターであり、数々の楽曲提供やアニメ、映画などの劇伴にも携わっているポップバンド、スカートを主宰している澤部渡さん。ディープな音楽ファンであり、漫画、お笑いなど、さまざまなカルチャーを大きな愛で深掘りしている澤部さんのカルチャーエッセイが今回からスタートします。連載第1回は新譜『SONGS』にまつわる、現在と過去を行き来して「僕のセンチメンタル」を探すお話です。

2023.11.23(木)
文=澤部 渡
イラスト=トマトスープ