佐野 最終的には放送してみるまでわからないことは多いのですが、一つ一つ、「これで大丈夫」だと思えるのが大事で。難しいですよね。テレビ局でドラマを作るときに、社内の様々な部署からもあれこれ意見は来るんですけど、いわゆる局員のプロデューサーは1人しかいないので、最終的にこれでOKかどうか決めるのはプロデューサーです。でも、そんな背負えないよという気持ちもあって。悩みながら作りあげていきました。

テレビの業界で変わらなかったこと

――『エルピス』は2018年から2020年の設定で、2018年はMeToo運動が広がった時期とも重なります。村井のキャラクターは、結果的にどう変わっていったんでしょうか。

佐野 村井自身はそれほど大きく変わっていないんです。長澤まさみさん演じる浅川恵那に対して、「おばさん年だけくいやがって!」「だ、大丈夫か? 更年期か?」といったセリフがありますが、村井は悪意のある嫌味として言っているわけではなく、本気で更年期だと思っている。それが伝わるように怒鳴ったり笑いながら言うのではなくて、本気で心配して言う……台本から演出で変わる余地も大きいので、そういう微調整を積み重ねていきました。

 作家は信念を持って村井という人を書いているので、村井の行動軸は変えませんでした。たとえば2017年と2022年って、テレビの業界で村井みたいなセクハラ、パワハラ発言をするような人が、根っこの部分で変わったかといったら、変わっていないと思うんですよね。だんだんと職場の環境やムードが変わったから仕方なく言わずにいるだけの人もいるというか。

 映像業界自体、男性が多い上に、技術部はチーフが男性で女性はアシスタントだったり、一方でヘアメイクさんや衣装さんは女性が多かったりと役割がかなり固定化しているのは変わりません。そういった状況をふまえて、村井が全スタッフから受け容れられているわけではないことを描写する。それは周囲の芝居や、木嶋というADの女性がとにかく村井の発言を不快に思って憤慨しているセリフやシーンを足したりすることで表現しようと、そういう議論を重ねました。

2023.03.28(火)
文=ひらりさ、佐野亜裕美
撮影=平松市聖/文藝春秋