宝塚歌劇団在団中、かたや男役のトップスターとして、かたや娘役トップとして、絶大な人気を誇った柚希礼音さんと愛希れいかさん。舞台に立った瞬間、観客の目を惹きつける華やかさと存在感に加え、タイプの違うさまざまな作品や役に挑みながら、つねに新たな魅力を更新しつづけてきた。

 そんなふたりが、ミュージカル『マタ・ハリ』でヒロインのマタ・ハリ役を務める。第一次大戦下、その妖艶でオリエンタルな雰囲気と力強く妖艶なダンスで、ヨーロッパ中の観客を虜にしていたマタ・ハリ。戦争に翻弄されながらも、自らの信念や愛に生きようとする姿を描いたこの作品は、2018年に柚希さん主演で日本初演され、大好評を得たもの。

 2018年の日本初演時に同役を演じた柚希さん、そして今回が初役となる愛希さんに、この作品への思いと意気込みを伺いました。

(全2回の1回目。後編へ続く)


マタ・ハリを演じたことで、一皮剥けました

――柚希さんは2018年にマタ・ハリを演じられていて、今回が再演となりますね。前回の柚希さんのマタを拝見した時に、完全に“男役”が抜けて“女優さん”になられたんだなという印象を受けました。

柚希 退団して3年目に入った頃だったんですよね。マタはお腹が見える衣裳もありますから、最初にオファーをいただいた時は、「ファンの方はこれは観たくないんじゃないかな?」っていうところに頭がいってたんです。でも、いろいろ考えるうちに、「ここは潔くやったほうがカッコいいかな」っていう思いも生まれてきて。

 それでもやはり不安はありましたけれど、演出の石丸さち子さんが、「私を信じてやりなさい」と言ってくださったことで、開き直れたというか。

――とてもカッコいいマタ・ハリでした。

柚希 公演が始まってからは、私をここまで応援してくださってる方々は、「絶対に男役じゃなきゃ」というのではなく、一生懸命役に挑んでいる姿を見て応援してくださっているんだっていうことがわかって。この作品を経たことで、「これはびっくりするだろうな」って思うような役にも勇気を持って挑戦する気持ちになれたんです。一皮剥けたというか。

――一方で愛希さんは今回が初めての挑戦ですが、いま『マタ・ハリ』にどんな思いで臨もうとされていますか?

愛希 この作品で、さらに殻を破りたいというか……自分にとって挑戦の役だと思っています。宝塚時代にはカルメンのような男性を翻弄するような役も演じていますが、退団してからは、こういう妖艶な役は初めてなんです。

 まだ未知の領域でわからないですが、本当の男性を相手に“女”を前面に出す役を演じるのって、宝塚の娘役としてのアプローチとはまた全然違う気がするんですよね。そこがきっと面白いんだろうとも思うんですが、挑戦する部分も大きいので頑張りたいですね。

2021.05.22(土)
文=望月リサ
写真=鈴木七絵
ヘアメイク=黒田啓蔵(Iris) 、杉野智行(NICOLASHKA)
スタイリスト=間山雄紀(M0)、山本隆司