神戸市兵庫区和田岬。
神戸の中心街、三宮や元町、神戸駅からそう遠くないのに、観光客はもちろん神戸っ子もなかなか足を運ばないエリア。
古くは平清盛ゆかりの地として知られ、勝海舟の指揮で造られた砲台や明治時代に開削された兵庫運河が残っており、歴史散歩を楽しむことができます。
近年は、ヴィッセル神戸のホーム「ノエビアスタジアム神戸」があるので、試合の日は多くの人でにぎわうようになってきました。
そんな街の隠れたお菓子の名店が「PATISSERIE ET… ARUKUTORI(歩く鳥)」。
神戸市営地下鉄海岸線・中央市場前駅から徒歩約5分。本町公園近くのビルの2階ですが、外や入口には看板がありません。
ドキドキしながら細い階段を上がると、パティスリーとは思えないほど素っ気ない入口。
中に入ると、小さなショウケースとスタンディングのカウンターで、奥にはテーブル席も。
ウィリアム・モリスの壁紙やクラシックな家具が印象的な、ゆったり落ち着いた雰囲気。店主・赤松大輔さんが迎えてくれます。
赤松さんは、1979年生まれ、和田岬の出身。「当時ブームだったオシャレなカフェに憧れて(笑)」、製菓専門学校で学び、23歳で「神戸北野ホテル」へ。デザートやケーキ作り、ホールも担当します。
その後、南京町にあったカフェ、結婚式場も経営するレストランなどで働きながら、独立開業を目指して物件探しをしつつ、「チーズケーキを作り、口コミで注文を受けて配達したり、週末のイベントに出店するようになりました」とにっこり。
オシャレなアパレルショップにも赤松さんのチーズケーキが注目されて、店で扱われるようになります。
2014年に開業すると、赤松さんが作る「熟成チーズケーキ」は芳醇な香りと酸味、抜群の口溶けが口コミで広がり、ますます人気に。
そして、2019年1月18日、実店舗をオープン。
「地産地消で、神戸のものを手土産にしたり、地元のものを食べようという意識の高まりのおかげで、少しずつ広まり、コツコツ手作りでやってきました」と赤松さん。
純国産鶏にこだわる淡路島の北坂養鶏場から直送された卵を「プリン」に、また、以前ご紹介した神戸市北区の「弓削牧場」の生チーズ・フロマージュ・フレを「クレームダンジュ」に使用。
また、季節限定のイチゴは、神戸市北区淡河の個人農家・森本聖子(しょうこ)さんが栽培するもの。生産者を赤松さん自ら訪ねて使っているのです。
大人気のベイクドチーズケーキには、フランス産のクリームチーズを使用。サワークリームを加えて、軽やかな風味に。
「マダガスカル産の高級バニラビーンズを使っているのもポイントです」と赤松さん。
底のクランブルはキャラメリゼしており、作りたてはシャリッとした食感。冷蔵庫で数日寝かせると、水分を含んでしっとり。食感と口溶けが変化します。
これが、赤松さんが言う「熟成」。味の変化を楽しむチーズケーキは、濃厚なのに後味すっきり。虜になるおいしさです。
2019.05.26(日)
文=そおだよおこ
撮影=坂上正治