姫路市の南東部、播磨灘に面した的形町は、潮干狩りや海水浴で有名。

 また、「歴史の宝庫」といわれるほど、古代の古墳や僧・行基にまつわる寺院や中世の石像物、近世の禅寺の庭園など、古いモノが数多く残っています。

 無人の山陽電車的形駅から、南に歩くこと、約15分。

 細い路地を歩いていると、蔵がある立派な建物や小さな神社を発見。

 水辺にはボートやヨットが係留されていたり、潮の香りがしたり。その新旧、和洋の対比が面白い。

 目指す「井上茶寮」は、瓦葺きの古い門に架かった暖簾が目印。中に入ると、飛び石のアプローチ。

 重厚な扉を開けると、小さな灯りと、丸窓越しの中庭からの光に浮かび上がる情緒たっぷりの空間。靴を脱いで上がります。

 建物は、塩田庄屋として17代続いた「旧植田邸本家」で、110年余り経っているのだそう。

 店主・井上祖人さんに迎えられ、右手のドアを開けると……。

 なんと、吹き抜けの高い天井の空間。大きな一枚板のテーブルと作家物の木製の椅子、2人用の丸テーブルを配した心地よい和洋折衷のしつらえ。

 大きな窓越しのデッキには、井戸の古いポンプなども残っています。

 ほっと心が安らぎ、ずっと座っていたくなります。

 井上さんは、1993年、兵庫県三木市生まれで、10歳から北海道へ。札幌や東京、大阪のレストランで働き、お菓子も作ってきました。

 元々、甘いものが大好きで、東京のファーマーズマーケットでお茶菓子を販売していたことも。

 お茶に興味を持ち、5年前から茶道を習い始めたと言います。
 

 この建物に偶然出合って一目惚れし、茶寮として営業しようと決心。2017年3月、おもてなしの場「井上茶寮」をオープンしました。

 「お茶の可能性や新しい表現方法を開拓したい。お菓子は季節感を第一に、和菓子職人ではないので、固定概念にとらわれずに作っています」と井上さん。

 自ら選び抜いた日本茶を置き、和菓子を手作りしています。

 「ビオの農家のお茶を使うと決めています。それは、単純に気持ちがいいから。お茶は、おおらかに飲みたいですよね」とにっこり。

 福岡の「白折」や和紅茶「べにひかり」、京都の焙じ茶「やぶきた」など、常時6種類。珍しい徳島の「阿波晩茶」もあります。

 どのお茶も、一煎目は、井上さんがテーブルで急須に注ぎ、その豊かな香りを楽しませてくれます。二煎、三煎と飲めるのも魅力。

 井上さんは、お茶とお菓子だけでなく、3皿構成のランチも提供。ランチの後、お茶を追加で注文して、ここでの時間を堪能するリピーターも多いそう。

「ひとりで営んでいるので、イベントなどで出店している時は、カフェはお休みなんです」

 店主自らが客をもてなす。そんな茶道の心を感じさせるお店でもあります。

2019.03.24(日)
文・撮影=そおだよおこ