東日本の魅力を巡るクルーズトレイン「四季島」の旅を彩る美食の数々。各地の食の魅力を凝縮し一皿の上に装う料理長に、その旅と食の魅力を尋ねる。
美しき列車とともに
豊饒の地を巡る
旺盛に茂っていた青葉はやがて、吹き始めた秋風に少し色づいた葉を揺らす姿へ─。列車が北上するに従い、季節を進めるかのように車窓が移ろう。同時に、日々の雑事に慌ただしく波立っていた心が、伸びやかに開いてゆく。
南北に長い日本の美しい風光を味わう四季島での時間は、そんな旅の楽しさが味わえるひととき。さらに、その四季の恵みたる食の豊かさも堪能できるのだ。だがそれだけ、料理人にとっては何をどう供するか、というセンスが問われる舞台でもある。
「東日本といっても広いですから、食材は非常に多彩で旬もそれぞれ。だからこそ食材選びには心を砕きます」
2017年の運行開始以降、その舞台を担ってきた岩崎均シェフは言う。
「沿線には、頑張っている生産者の方々が大勢いる。しかも土地に根ざした食材にはたくさんの物語があるんです。でも、召し上がっていただく方にどう伝えたら良いのか悩んでいる生産者も多い。それを伝えるのが“料理人”である僕の役目。僕は四季島の仕事に就く前、ホテルで東日本の食材を使ったフェアを経験し、山形のマッシュルームや福島のメイプルサーモンなどの食材に出合いました。それらの魅力を伝える責任がある。“これを現地でまた食べたい”と、乗客のみなさまに思っていただきたいのです」
例えば、前職時代に出合った山形の伝統食材、庄内麩。フレンチには向かないだろうと言う生産者に対し、岩崎シェフは当時、ミルフィーユにしたらいいと提案。このように四季島でも様々な食材を華やかなフレンチの一皿に変え、ゲストに驚きと口福を味わわせてくれるのだ。もちろん、調理現場では列車特有の課題もあったという。
「揺れだけは……1年間乗ってみないと全く分かりませんでした」
例えば盛り付けのタイミングで車体がカーブして傾くと、ソースが流れてしまう。粘度のあるソース作りを心がけたという岩崎シェフだが、今ではどこで揺れるのかが分かりますと笑う。
「一番楽しいのは、やっぱりゲストとのコミュニケーション。ともに過ごす時間が長いので、ゆっくりお話ができます。それに、各駅で沿線に住む方々が迎えてくださるんです。一度、駅に来ていた女の子が、私の夢は四季島のシェフになることだって言ってくれて。とても嬉しかったですね」
Edit & Text=Kie Oku
Photographs=Mami Enomoto