19世紀、フランスを中心に興ったジャポニスム。日仏友好160年の今年、日本の文化芸術が新たなるジャポニスムとしてパリで花開く!


パリで出合う日本の至宝!
注目の展覧会をご紹介

 琳派芸術の代表作や、江戸絵画の大傑作、縄文土器や現代アートが趣向をこらした展示内容で瀟洒なパリの空間に再現される。今年の夏から開催される選りすぐりの展覧会を紹介しよう。

国宝《風神雷神図屏風》や《動植綵絵》30幅が
欧州で初お目見え

 日仏友好160年を記念して、日本の文化芸術を紹介する総合型文化芸術イベント「ジャポニスム2018:響きあう魂」がパリ市内を中心に、7月より開催される。歌舞伎、能楽などの伝統芸能から、現代演劇、アニメ、地方の祭りや日本食に至るまで、60以上の展示や公演が繰り広げられる。

 「ジャポニスム」とは、19世紀後半、フランスを中心にヨーロッパで興った日本美術愛好のムーブメントで、その影響は絵画や工芸、建築など多岐にわたった。それから約1世紀半。現代日本が誇る文化芸術が、ネオ・ジャポニスムとして、フランスで花開くのだ。


Musée Cernuschi
「京都の宝 ─ 琳派300年の創造」展

2018年10月26日~2019年1月27日 セルヌスキ美術館にて開催

国宝《風神雷神図屛風》 俵屋宗達筆 京都・建仁寺蔵
二曲一双の金地屏風を背景に右に風神、左に雷神が対峙する。宗達の最高傑作であり、琳派を象徴する代表作ともなっている。

 パリのセルヌスキ美術館で開催される「京都の宝―琳派300年の創造」展は、江戸時代前期に活躍した俵屋宗達から、尾形光琳をはじめとする琳派の傑作までが数多く揃う、珠玉の展覧会。特に京で創造された絵画、書跡、工芸などの琳派作品が総合的に展示される。

 ちなみに「琳派」とは、宗達、光琳、酒井抱一に代表される絵師の系譜で、直接的な血縁や師弟関係で結ばれた画派ではなく、活動時期も重なっていない。先人の遺した作品に触れ、模写などを通じて主体的に学び、新たに独自の方向性を切り開くことで、美意識と形式を継承する流派である。

重要文化財《舞楽図屛風》 俵屋宗達筆 京都・醍醐寺蔵
平安時代に栄えた舞・舞楽を描く。金地に舞人たちの極彩色が映え、自由闊達に描かれたその配置は驚くほど絶妙だ。

 宗達作《風神雷神図屏風》は、黒い雲霞に乗り、天衣をたなびかせ、彫刻を思わせる逞しい量感を備えた風神、雷神が躍動感溢れる姿で描かれる。この宗達作品は後世の光琳によって模写されるのだが、そのきっかけを日本美術史学者の小林忠氏はこう語る。

「京都の建仁寺に伝わるこの屏風は、元は妙光寺にあり、世には知られていませんでした。妙光寺は光琳の弟で陶芸家の尾形乾山が営む鳴滝窯と近く、乾山が学んだ野々村仁清の墓もあります。兄弟は仲が良く、合作も多かった光琳が、乾山を通して宗達の《風神雷神図屏風》の存在を知り、模写を妙光寺に願い出たのではないでしょうか」

重要文化財《蔦の細道図屛風》 伝俵屋宗達筆 烏丸光広賛 京都・相国寺蔵
『伊勢物語』の「業平東下り」の場面を緑青の蔦で表現。空や道に蔦が垂下する。書と画の美しい合作。

 光琳の描いた《風神雷神図屏風》をさらに後世の抱一が模写し、以降、風雷神図は琳派継承の象徴的画題となる。

 今回が欧州で初お目見えの宗達作《風神雷神図屏風》。パリに飛翔する風の神、雷の神は、どんな雄大な姿を見せてくれるだろうか。楽しみだ。

「京都の宝 ─ 琳派300年の創造」展

会場 Musée Cernuschi (セルヌスキ美術館)
所在地 7 avenue Vélasquez, 75008 Paris
電話番号 01-53-96-21-50
開館時間 10:00~18:00
定休日 月曜
入場料 7~9ユーロ(予定)
http://www.cernuschi.paris.fr/

江戸中期の天才画家
伊藤若沖の傑作展

 光琳がその華麗な人生を閉じた1716年、同じ京の地に生まれたのが、伊藤若冲。江戸中期の天才画家・若冲の代表作を紹介する展覧会「若冲―〈動植綵絵〉を中心に」展が9月15日よりプティ・パレ美術館で開催され、若冲の畢生の大作《動植綵絵》30幅と《釈迦三尊像》3幅が一堂に会する。


Petit Palais, Musée des Beaux-Arts de la Ville de Paris
「若冲 ─〈動植綵絵〉を中心に」展

2018年9月15日~10月14日 プティ・パレ美術館にて開催

 若冲といえば、京に三代続く青物問屋の長男として生まれ、23歳で家業を継ぐも、好きな絵の道を諦められず、40歳で次弟に家業を譲り、画業に専念。85歳で没するまで、常にユニークでオリジナリティ溢れる斬新な手法で、多数の傑作を生んだ、稀代の天才画家だ。

 42歳から10年あまりをかけて制作し、《釈迦三尊像》と共に京都・相国寺に寄進した《動植綵絵》は、鳳凰や孔雀、鶏、牡丹、梅、鯛、蝶など、霊鳥から魚類、身近にいる虫まで、様々な生き物の生命感とその美しさを、大胆な構図のもと、写実的、装飾的、そして幻想的に精緻稠密を極めて描いたシリーズだ。

 中央に仏教の開祖・釈迦如来、右幅に仏の智慧を象徴する文殊菩薩、左幅に仏の功徳を象徴する普賢菩薩を配する《釈迦三尊像》は、東福寺伝来の14世紀の釈迦三尊像を見た若冲が、その功妙さに心を打たれ、謹んで礼拝の念をもって模写したもの。

 250年以上経った今も、若冲が多くの人を惹きつけるのはなぜだろう。小林氏は、その魅力をこう説明する。

「若冲は経済的に恵まれていましたが、絵のほかには、ほとんど興味をもたず、結婚もせず、生涯、尊いものを追い求める姿勢を貫いた、大変真面目な人です。そのような真摯な生き方が、絵に表れていると思います。若冲の生き方が、美しいものを求めたり、ひたむきに何かに向き合う人を評価する現代の感覚に合ったのではないでしょうか」

《動植綵絵》と《釈迦三尊像》は、仏教を厚く信仰した若冲が「草木国土悉皆成仏」(すべての生命あるものは仏性を備えている)という思想を託し、釈迦とその下に集う動物、植物、昆虫たちを描いた宗教画だという。

「仏様の光の下で動物や植物が生を謳歌している。それが感受性の豊かな現代の人たちに伝わるのだと思います」

 パリに出現するひと月限りのこの世の楽園。生きとし生けるものたちが仏の下で美しく歓喜する姿が目に浮かぶ。

「若冲 ─〈動植綵絵〉を中心に」展

会場 Petit Palais, Musée des Beaux-Arts de la Ville de Paris(プティ・パレ美術館)
所在地 avenue Winston Churchill, 75008 Paris
電話番号 01-53-43-40-00
開館時間 10:00~18:00
定休日 月曜
入場料 未定
http://www.petitpalais.paris.fr/

小林 忠(こばやし ただし)さん

日本美術史学者、岡田美術館館長、『國華』主幹、国際浮世絵学会会長、学習院大学名誉教授。若冲研究の第一人者。戦後初となる昭和46年の若冲展をはじめ、江戸時代絵画展・若冲展を多数手がける。著書多数。

Text=Yumiko Kageyama
Photo=Atsushi Hashimoto(Paris)