額に稲妻の傷跡をもつ魔法使いの少年の物語『ハリー・ポッターと賢者の石』が英国で出版されたのは、1997年のこと。当時は無名の作家だったJ・K・ローリングによる初版わずか500部から始まったハリー・ポッター・シリーズ全7巻は、この20年間で世界80言語に翻訳され、総計販売部数4億5000万部以上という歴史的な数字を記録、映画も大ヒットを博しました。

 子どもだけでなく、大人をも魅了したこの作品のマジカルな世界に浸れる、英国内のスポットを巡る旅へとご案内しましょう。

ホグワーツの大広間から禁じられた森まで
ハリポタ・ワールドにトリップ!

ダンブルドアの校長室。部屋の奥の窓際に見える丸いものは、天体望遠鏡。(C)Warner Bros. Studio Tour London / The Making of Harry Potter

 ハリー・ポッター映画、全シリーズが撮影された、ロンドン郊外のリーブスデン。広大な敷地に、ホグワーツの大広間や教室、寮やダイアゴン横丁まで、大小さまざまなセットがここに建てられ、多くのシーンが撮影されました。

 シリーズの撮影終了後の2012年には「ワーナー・ブラザーズ・スタジオ・ツアー:メイキング・オブ・ハリー・ポッター」としてオープン。世界中のハリポタ・ファンが集まる一大テーマパークとなりました。ここには、セットはもちろんのこと、衣装や小道具、特殊効果などのハリポタ映画の舞台裏に関する、さまざまなものが展示されているのです。

大広間のセット。ちょうどハロウィーン時期だったため、天井からカボチャの飾り付けがぶら下がっています。

 まず最初の見どころは、おなじみホグワーツの大広間です。天井部分は特殊効果によって仕上げられたため、実際のセットは映画で見るのとは違う見かけです。宙を舞うキャンドルも、2作目以降はCGを使用したそうですが、なんと、1作目はキャンドル型のオイルランプに火をともしてワイヤーでぶら下げていたとのこと。ワイヤーが熱で溶けてランプが落ちるなどの不具合が生じ、2作目以降はCGに切り替えられたのだそうです。

 大広間の壁沿いには、ハッフルパフ、レイブンクロー、グリフィンドール、スリザリンの4つの寮のそれぞれの制服や、壇上にはダンブルドア、マクゴナガル、スネイプ、ハグリットなど教職員の衣装も展示されています。

魔法薬学の教室。薄暗さが神秘的なムードをあおります。

 学校内の施設や設備も、とにかく贅沢。魔法薬学の教室では、魔法薬を配合するための釜が作業台の上に置かれ、壁沿いの棚には、ラベルのついた薬瓶がびっしりと並んでいます。ダンブルドアの校長室の壁には歴代校長48人の肖像画が掛けられ、本棚には分厚い本がずらり。ピンクで埋め尽くされたアンブリッジのオフィスには、トーンの異なるピンクの衣装も展示されています。

アンブリッジのオフィスは、とにかくピンク、です。

 ホグワーツでは、動く肖像画が何枚も並んだ壁がお馴染みですが、この肖像画の壁も展示されています。映画ではこれらの肖像画をひとつひとつしっかり見ることはできませんが、実はとても巧妙に、制作スタッフの肖像画が隠されているのに驚きます。

肖像画の壁。プロデューサーや小道具担当の肖像画も混じっています。

 ハリーやロンが学生生活を送った寮や談話室ももちろん、展示されています。

 ハリーやロンの寝室に置かれているのは、実際に英国の寄宿学校で使われていたベッドなどの家具。11歳の少年たちにはちょうどよい大きさだったそうですが、キャストが成長するにつれて、ベッドは完全に小さくなってしまい、シリーズ後半では足を折り曲げて寝たり、また小ささが目立たないようなカメラアングルを採用したり、と工夫しながらの撮影となったそう。

 談話室には、若き日のマクゴナガルの美しい肖像画も飾られているので、ぜひ探してみてください。

グリフィンドールのハリーとロンの寝室。『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』で、自室で動物の吠え声スイーツを食べてはしゃぐ、ハリーたちのシーンでは、ベッドに対してネビルの身体が大きいのがわかるかもしれません。

 ほかにも、ハグリットの小屋、ウィーズリー家のキッチン、ウィッグや衣装など細部にまで気を配ったセットや小道具がいっぱいです。

左:ハグリットの小屋のなか。入り口には愛犬ファングもいます。
右:アンブリッジによって定められた禁止事項が貼り出された壁。
ウィーズリー家のキッチン。魔法で食器を洗ったり、編み物をしたりする様子が見られます。
ウィッグとともに、ヘアメイクさんのデスクも再現されています。ウィッグは約4500~9000ポンドと、非常に高価なものなのだとか。
左:おびただしい数の帽子。
右:ゴブリンのマスクが納められた棚。これだけ並ぶと圧巻です。
頭部はもちろん、手までマスクがあるのです。

2018.01.06(土)
文・撮影=安田和代(KRess Europe)