額に稲妻の傷跡をもつ魔法使いの少年の物語『ハリー・ポッターと賢者の石』が英国で出版されたのは、1997年のこと。当時は無名の作家だったJ・K・ローリングによる初版わずか500部から始まったハリー・ポッター・シリーズ全7巻は、この20年間で世界80言語に翻訳され、総計販売部数4億5000万部以上という歴史的な数字を記録、映画も大ヒットを博しました。

 子どもだけでなく、大人をも魅了したこの作品のマジカルな世界に浸れる、英国内のスポットを巡る旅へとご案内しましょう。

衣装担当が語る舞台裏

ロンドン郊外のリーブスデンにあるワーナー・ブラザーズ・スタジオ・ツアー。平日でも多くの人が訪れる人気テーマパークです。

 ハリー・ポッター・ファンにとって、ロンドンで絶対に行かなければならないマスト・スポットが、実際にハリポタ映画が撮影された「ワーナー・ブラザーズ・スタジオ・ツアー:メイキング・オブ・ハリー・ポッター」です。ホグワーツ魔法魔術学校をはじめ、ダイアゴン横丁、プリベット・ドライブ、そしてさまざまな小道具や特撮の仕組みまで、広大なスタジオで惜しげもなく公開されています。

 今回は特別に、このスタジオの会議室で、ハリー・ポッター映画3作目から衣装担当の一員として制作に携わり、このスタジオ・ツアーのコスチューム・アドバイザーも務めるローレント・グゥインチさんに、お話をうかがいました。

左:最終作『死の秘宝』のなかでハリーが着ていたジャケットを手に説明するローレントさん。
右:この穴のあき具合は、戦闘中のシーン用でしょうか。

 まず、ローレントさんが見せてくれたのは、最終作『ハリー・ポッターと死の秘宝』でハリーが身につけていたジャケット。よく見ると穴だらけなのがわかります。

 「ハリー・ポッター映画の衣装の数は、本当に途方もないのです。たとえば、このジャケットひとつとっても、合計で70着ほど同じものを作っています」とローレントさん。

スタジオ・ツアーの展示品のなかには、胸に血のついたスネイプの衣装も。こちらはシーン304用「BLOODY(血まみれ)」という印がついています。彼の最期のシーン用かも?

 まず、ハリー役のダニエル・ラドクリフが着るためのもの、そしてダブル(役者の替え玉)用、スタント用とそれぞれ必要なのに加え、映画の始まりから終わりまで、時系列に沿って汚れたり古くなったり、はたまた戦闘シーンでは穴があいたり、破れたりという、段階ごとの状態のものを用意しなければならないのだそう。

 「特に、この映画の場合は、戦闘シーンも時系列の撮影ではなかったので、例えば、右側に穴があくという設定があるなら、それ以降のシーンの撮影には右側に穴のあいている衣装でなければいけないわけです。実際に穴のあくシーンは3カ月後の撮影だったりするのですが、右と左を間違えたら、あとあと大変なことになってしまいます」とローレントさんは話します。

4つの寮のすべての制服は、大広間のセットのなかに展示されています。こちらはグリフィンドールのもの。

 「常時、子どもたちが平均で400人くらい現場にいるので、彼らの衣装ももちろん同じように段階ごとに必要になります。毎回、1年を通してのお話なので、各シーズンの衣装も必要で、例えば、冬のシーンなら手袋やニットの帽子なども用意しなければいけませんね。それを人数分です。多いときには、衣装担当が95人も現場におもむき、着替えを手伝ったこともあります」と、撮影現場の大所帯ぶりもうかがえます。

2018.01.02(火)
文・撮影=安田和代(KRess Europe)