BOOKS INTERVIEW 本の本音

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少女たちだけの王国で育まれる物語
松浦理英子の『最愛の子ども』

少女たちが自ら語る
愛おしい王国の物語

今月のオススメ本
『最愛の子ども』 松浦理英子

私立玉藻学園高等部二年四組で、パパ、ママ、王子様という配役を与えられた、日夏、真汐、空穂。少女たちだけの王国で紡がれるロマンスの行方は。〈わたしたち〉という一人称複数の語りの形式が取られていることで、読者も、一連のドラマを目撃し、うわさし、妄想を楽しむクラスメイトのひとりになった感覚に陥って楽しい。
松浦理英子 文藝春秋 1,700円

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「2000年に出版した『裏ヴァージョン』という作品の中に、この小説の構想があるんです」

 同級生たちから〈あの三人はパパとママと王子様だ〉と言われている仲のいい3人の女子高校生がいて、3人もまた、自分たちをそうした仮想の家族だと捉えている。そんなプロットが、まさに十数年の時を経て結実したかのような、松浦理英子さんの『最愛の子ども』。

 日夏、真汐、空穂の3人が形づくる疑似家族を中心に、彼女たちを〈わたしたちのファミリー〉と呼んでアイドルのように観賞し愛でる同級生たち。彼女たちが作り上げた小さくて幸福な共同体が物語の舞台となる。

「大人や男性たちが主流の一般的な共同体では、少女やマイノリティーを自分たちの都合のいいように、あるいは自分たちが面白がれるように、特別視し、自分たちの抱くイメージに合わせて取り扱います。そうした中では真汐のような型からはみ出る少女は愛されない。私も作品の中の少女たちと同じように、世間から不自由さや屈辱感、非力さを感じさせられてきました。そうした大人・男性/子ども・女性の図式に対して批判を加えたいという思いもありましたが、それ以上に、大人たちの支配から逃れた少女たちだけの王国で、彼女たちが主体となって自らを語るときに、どんな物語が育まれていくのか。そのさまを書きたかったんです」

 語り手が〈わたしたち〉という一人称複数であることも目を惹く。

「各登場人物の内面に入っていけて便利でしたし、全てクリアに見せることで、3人の関係の揺らぎに、読者をやきもきさせるようなサスペンスを生むこともできた。人称が有効に機能してくれたのでよかったなと」

 卒業までの日々の中で、観察と伝聞と妄想が入り交じり、3人の少女たち自身も、関係性も、変容せざるを得ない出来事がいくつも起きる。だが、「純粋で強い愛が大人たちによって壊される話ではない」と松浦さんが語ったように、本を閉じたときの余韻は、絶望ではなく希望だ。

「人生の早い時期に出会った愛着の対象と、ずっと一緒にいることがいいことかどうかはわからない。というか、日夏や真汐たちにはそんな愛着にすら縛られることなく、新しい広い世界に踏み出していってほしいという親心が作者にはあります。ただ、10代のころの苦しさもときめきも、私の中ではいまだに生々しくて、蘇らせようと思えば自在にできます。私はたぶん、永遠に思春期の真っ只中にいるんですね(笑)」

松浦理英子(まつうら りえこ)
1958年愛媛県生まれ。94年『親指Pの修業時代』で女流文学賞、2008年『犬身』で読売文学賞を受賞。

<この記事の掲載号>

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2017.07.04(火)

文=三浦天紗子

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