BOOKS INTERVIEW 本の本音

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女ひとりの生活の豊かさを教える
綿矢りさの『私をくいとめて』

イマドキ女子の幸福感を
新たな視点で描く

今月のオススメ本
『私をくいとめて』 綿矢りさ

おひとりさまの生態が詰め込まれた“あるあるネタ”にも、黒田さんとAとのリアルな会話にも、共感できて楽しい長篇。黒田さんと多田くんとのほわんとした恋の行方だけでなく、黒田さんと仲良しの会社の先輩・ノゾミさんと、ノゾミさんが執心している〈真性のイケメン〉のカーターこと片桐直貴との関係の変化も見守りたくなる。
綿矢りさ 朝日新聞出版 1,400円

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 ずっと、恋愛だ女子会だと誰かとつるむことを推してきた女子社会。だが、恋人がいないとか、好きな人もいなくて友達と恋バナもできない生活は、本当につまらないのか。そう自問自答すれば、「否」とする自分がいないだろうか。

 綿矢りささんの『私をくいとめて』の主人公は、もうすぐ33歳になる黒田みつ子。〈男性も家庭も、もはや私には遠い存在になっている〉自覚があるが、〈一人で生き続けてゆくことになんの抵抗もない、と思っていた〉し、休日には、合羽橋で食品サンプル作り体験、ランチで一人焼き肉、マッサージ、奥多摩へ日帰り温泉など、ひとり時間を満喫している。

「今回の主人公は、自分に似合う生活を探求している女の人にしようと。私もかつて、ひとりで行くにはハードルが高い場所に一段一段、挑戦するような気持ちで出かけたりしていたのを思い出しながら書きました」

 達観しているつもりでも、ときどき惑う。だが、そんなときに腹を割って話せる味方が黒田さんにはいるのだ。 彼女が〈A〉と呼ぶ〈私専用のSiriみたい〉な声は、脳内の自分。詰まるところ自分なので、異性の好みも恋のクセも知り尽くしていて、恋愛相談はお手のもの。ご近所付き合いからなかなか進展しない会社の取引先の営業マン・多田くんとの関係についても、Aがあれこれアドバイスしてくれる。

「私は、誰かと会話しているみたいな口調で延々ひとりごとを言っているタイプ。ひとり暮らしの私の部屋に遊びに来た母が『心配になった』と笑ってましたが、小説に書いたら面白いかもとずっと思っていたので、それを主人公のクセにしました」

 女性がひとりで生きていくことをテーマにした小説は、ひっそりとした孤独を託つようなものになりがちだが、本書はそんな古くさい孤独のイメージを塗り替える。

「私自身、ひとりでいるのも好きだけれど、一方では、常に他者を求めているようなところがあって。そこが苦しかった。私の世代だと、小室ファミリーの歌にある“街をさまよっても居場所はどこにもなかった”というアンニュイなメンタリティーが刷り込まれているんですが(笑)、黒田さんのように自活して自分というものに満足していたら、こんなに人は地に足がついた感覚がもてるんだ、精神的に余裕があるってこういうことだなと思いました」

 ちょっぴりの寂しさは消えはしないが、ひとりの豊かさを教えてくれる本書。新しいひとり小説の誕生だ。

(C)朝日新聞出版写真部
東川哲也

綿矢りさ(わたやりさ)
1984年京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒業。2001年『インストール』で第38回文藝賞を受賞しデビュー。近著に『手のひらの京』(新潮社)など。著書多数。

<この記事の掲載号>

CREA 2017年3月号

大人のためのアニメガイド
みんなアニメに夢中。

定価780円

2017.02.15(水)

文=三浦天紗子

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