BOOKS INTERVIEW 本の本音

BOOKS INTERVIEW 本の本音

一人が二人になる気配を詳細に描いた
『やめるときも、すこやかなるときも』

弱さの見せ合いって
恋愛に繫がっていくと思うんです

今月のオススメ本
『やめるときも、すこやかなるときも』 窪 美澄

初恋の呪いを引きずった32歳の壱晴と、恋愛や結婚に憧れる気持ちはあるものの32歳の今も処女の桜子。二人が偶然出会い、必然の恋をする。ちょっと天然な桜子のコミカルさと、壱晴が椅子を作るシーンのエロティックさに、この恋を特別に輝かせるマジックがふりかかる。
窪 美澄 集英社 1,600円

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 デビュー作『ふがいない僕は空を見た』以来、窪美澄はセックスによって切り拓かれ、繫がっていく関係性を描き続けてきた。だが、『やめるときも、すこやかなるときも』は様子が違う。冒頭からベッドシーンで、ワンナイトラブな状況なのだが……「未遂」だった。

「全篇で性描写はほぼないですし、主人公の桜子に関して言えばセックスの経験もありません。今回はそこを封じて書いてみよう、と」

 家具職人の須藤壱晴は、毎年12月になると声が出なくなる。症状の原因は、18歳の時の初恋にあった。本橋桜子は処女をこじらせた結果、「重い」恋愛観の持ち主。そんな二人が「未遂」の後で意外な再会をし、心を急接近させていく。

「性を表現しないぶん、他の要素を書き込むことになりました。二人の会話や感情の流れを丁寧に拾い上げていくことになりましたし、住んでいる部屋の様子だとか家庭環境、普段の食事や友達との会話など、その人を成り立たせているものの描写が細密になっていったんです」

 個々の描写は丁寧で細密なのだけれど、恋が進展する時は常に急発進、というバランスが楽しい。序盤で描かれる女子会シーンでは、桜子が突如「私、須藤さんと結婚する」と宣言。その直後、付き合ってもいない壱晴を、家族と暮らす自宅に誘う。家族は、桜子にとって最大のコンプレックスであるはずなのに。

「本当は最後に見せるべきものなのかもしれないけど、一番ダメなところを最初に見せてしまおう、と。それができたのは、壱晴が先に、声が出せなくなるっていう自分の弱さを見せたからだと思うんです。よく“人に頼りなさいよ”って言う人がいますけど、そう言われても頼れないじゃないですか。そうじゃなくって、相手が先に自分の弱いところを見せてくれたら、こっちも弱みを見せられる。桜子と壱晴の関係もそう。二人の間で起きている“弱さの見せ合い”って、恋愛にも繫がるし、ひいては結婚にも繫がっていくと思うんです」

 大事なことは、お互いの秘密やコンプレックスを、隠すのではなく打ち明けることなのだ。そして、支え合うこと。

「恋愛小説というより、“一人が二人になる小説”ですね。人と人が近付いていく気配を詳細に描きたかったし、二人になることによって、違う景色へと一歩踏み出すまでを描きたかった。やめるときもすこやかなるときも“弱みを見せていこうぜ!”って伝えたかったんです」

撮影:冨永智子

窪 美澄(くぼ みすみ)
1965年東京生まれ。2009年「ミクマリ」で、女による女のためのR-18文学賞大賞を受賞しデビュー。近著に『さよなら、ニルヴァーナ』(文藝春秋)、 『すみなれたからだで』(河出書房新社)など。

<この記事の掲載号>

CREA 2017年6月号

世界で一番楽しい街は東京でした。
東京ひとりガイド。

定価780円

2017.05.22(月)

文=吉田大助

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