◆ダムエリア・大町エネルギー博物館
淺井裕介「土の泉」

 次に、市街地エリアから車で15分ほどの、ダムエリアを紹介しよう。北アルプスからの雪解け水の恩恵を受ける信濃大町では、ダムの建設とともに生活をしてきた。芸術祭では大町市の黒部ダム側をダムエリアと呼び、作品が点在している。

横幅約40メートル、高さ約9メートルもの巨大な壁。
大きなところに描きたいと思う理由は「大きな面なら自分のすべてを受け入れてもらえそうな気がするから」。

 「完成まであと3時間」というタイミングでの取材となった、淺井裕介「土の泉」は、大町エネルギー博物館の壁面がキャンバスだ。

 「とにかく大きなところに絵を描きたいんです」と淺井は言う。

 この作品に使われるのは、信濃大町の土。淺井が縁取り、地元の子どもたちが色をつけた箇所もあるのだという。大胆でありながら繊細な作品には、さまざまな人の思いがこめられている。

左:大きな壁面を、これらの絵筆で繊細に描いていく。
右:13種類の土を使っている。
雨が降っても流れないような工夫をして描いている。

◆源流エリア・仏崎観音寺
ジェームズ・タップスコット「Arc ZERO」

 最後に紹介するのは、鹿島川流域の源流エリア。北アルプスの雪解け水が大地を満たす、「水の信濃大町」の象徴的な風景に包まれる。大町温泉郷があるのもここだ。

 オーストラリアで光の芸術祭「Globelight」を創設し、注目を浴びている作家ジェームズ・タップスコットが注目したのは、信濃大町を縦横に流れる水路だった。

「私は旅をするのが好きで、水路を満たす清らかな水がどんな旅をするのか……そんな楽しい想像がふくらみます」

 作品の舞台は、仏崎観音寺の参道に流れる川を渡るための太鼓橋。「豊富な水量に感銘を受け、この水自体を作品として活かしたいと思った。水がどのように世の中を循環しているのか、そのことを考えた」と言う。

橋を覆うように光る霧のリング。鑑賞者はここを通り抜ける。
太鼓橋の向こうにある仏崎観音寺。

◆源流エリア・北アルプスエコパーク
川俣正「源汲・林間テラス」

 一般廃棄物処理施設「北アルプスエコパーク」が、源流エリアにある源汲(げんゆ)という集落にできる。2018年の稼働に向けて、いままさに工事が進んでいるところだ。

木々の間から見えるブルーシートで工事中だということがわかる。

 建設中の施設の隣にある緩衝林に、川俣正がテラス空間を生んだ。処理施設の建設が進む場所の、すぐ隣の林のテラスは木漏れ日が心地よく、自然の恵みを体感できる場所。森林に関わる専門家などを招いた「北アルプス林間芸術学校」も開講され、これからの森を考えるプラットフォームづくりが進んでいる。

「源汲・林間テラス」へ向かう途中、北アルプスからの雪解け水が水路を満たし、田植えの準備をするのどかな風景が広がっていた。

 「仁科三湖エリア」「ダムエリア」「源流エリア」のほか、前回紹介した「東山エリア」と「市街地エリア」もふくめた5つの地区で展開される、北アルプス国際芸術祭。全36組の作家が、それぞれの「信濃大町」を表現している。

 旅の起点となるのは、JR信濃大町駅。駅前には作品スポットでもあるインフォメーションセンターがあるので、まずは立ち寄ってみるのがおすすめ。作品鑑賞パスポートや公式ガイドブックの販売、エリアマップの配布もおこなっている。

 車で自由にまわるのもよし、自転車をレンタルすることも可能だ。それぞれのスタイルで、世界で活躍する作家たちが表現した「信濃大町」を心と体で感じる旅を体験するのがいい。

『北アルプス国際芸術祭2017』
~信濃大町 食とアートの廻廊~

期間 2017年6月4日(日)~7月30日(日)
料金 作品鑑賞パスポート 2,500円(高校生は1,500円、小中学生は500円)
※6月3日(土)までの購入なら2,000円(高校生は1,000円、小中学生は300円)
http://shinano-omachi.jp/

2017.05.28(日)
文・撮影=CREA WEB編集室