ビールでウイスキーを造るっていったい?

モーレンベルグ蒸留所の建物の一画は、ビジターセンターとなっていて、誰でも見学することができる。

 首都ブリュッセルと『フランダースの犬』で知られるアントワープの間に、16世紀初頭にヨーロッパの政治、経済、文化の中心として栄えたメッヘレンという町がある。その郊外にあるのが、モーレンベルグ蒸留所だ。

 「今回はビール取材のはずなのに、なぜ蒸留所?」と思いつつ中に入ると、出迎えてくれたのは、ヘット・アンケル醸造所のシャルル・レクレさん。この日訪れたのは、彼が最近新しく造ったというウイスキーの蒸留所。しかも、ビールから造られているというのだ。

ビジターセンターには、レクレ家の家系図からヘット・アンケル醸造所の歴史、銅の蒸留器や樽などの古い蒸留機器などが展示されている。

 ペールモルトを使った自社ブランドの個性的なビール、グーデン・カロルス・トリプルに麦芽を入れてウイスキーを造っているのだ。ヘット・アンケル醸造所では、もともとウイスキーを造っていたことがあった。そこで、現在の当主、シャルル・レクレさんが、使われていなかった古い建物を修復し、先祖が造っていたウイスキーを再現することにしたという。

現在のウイスキー造りに使われている蒸留器はこちら。
ウイスキーの、1年熟成と3年熟成の色の違いを説明するシャルル・レクレさん。

 1471年創業の醸造所を、シャルルさんの一族が買い取ってヘット・アンケル醸造所としたのは1872年のこと。1990年に彼が5代目として会社を継いだ。そこからブラッセリーを造ったり、ホテルを造ったり、それまでの醸造所がほとんど手をつけていなかった新しい試みを次々と実現させてきた。ウイスキー造りもそのひとつだ。

 ビールのモルト(麦芽)は規格が厳しいので品質がいい。ウイスキーのモルトに比べて、価格は高いけれど、その分、上質なモルトウイスキーを造ることができる。

 樽は、アメリカでバーボンを造った後の樽の内側を削ってバーボン臭を消して使う。なぜなら、アメリカではバーボンは新しい樽を使うので、使用済みの樽が手に入りやすいからだという。

ビールで造ったウイスキー、グーデン・カロルス・シングル・モルト(右)と、原料のビール、グーデン・カロルス・トリプル。

 仕上がったウイスキーは、雑味がなくバランスが取れていて、フルーティで、ほのかに木の香りがする上質な味に仕上がっている。ヘット・アンケル醸造所に続き、ウイスキーの本場、スコットランドでもこの製法で造られるウイスキーが現れたという。

ウイスキーやビールを購入できるショップの横には、それらをその場でいただくことができるラウンジもある。

Stokerij De Molenberg(モーレンベルグ蒸留所)
所在地 Klaterstraat 1, 2830 Blaasveld, Belgium
電話番号 03-501-8212
http://www.stokerijdemolenberg.be/en/whisky

2016.09.12(月)
文・撮影=たかせ藍沙