可能な限り美しいプロジェクトを

テーマ「ナチュール」にちなんで、400種類以上の鳥の鳴き声を模倣する“バード・シンガー”が登場した。(C)Marc Roger

 マルタンの音楽への情熱は、天才的なバランス感覚に支えられているが、二つの極にあるものは「夢と現実」ではないことが、話をしているうちに理解できる。マルタンの無限のパワーは現実の障害を次々と克服し、最後は夢だけを実現してしまうのだ。

 「確かに私はバランスを探すということが大好きです。企画を考えるとき、つねにこのことを考えますね。

 芸術に関する予算はつねに決まっています。そのことをネガティヴに感じることはないし、決まっている予算の中で最高のフェスを実現することが重要だと考えています。素晴らしいアーティストがいても、ギャラが高すぎるなら諦めます。その代わり、将来性のある若くて素晴らしいアーティストを探すんです。未来に可能性をもつ若手ですね。

 だから『障害』は私の前にはないんです。大切なのはシューベルトの音楽であり、ベートーヴェンの音楽。音楽家というのは、精神的に霊媒者のようなところがあり、エモーションをどう伝えたらいいのかを知っているスペシャリストです。私も自分の仕事で同じエモーションを持っていて、お客さんとアーティストの理想的な出会いを作り上げるという使命があります。

 最大の喜びはお客さんとアーティストとの会話ですよ。私の目的は可能な限り美しいプロジェクトを実現させるということなんです」

東京のラ・フォル・ジュルネでも上演される「耳のためのシネマ」では、聴衆全員がアイマスクを着用。(C)Marc Roger

ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭2016
会場 東京国際フォーラム、日比谷野音(日比谷公園大音楽堂)、大手町・丸の内・有楽町エリア
日時 2016年5月3日(火・祝)、4日(水・祝)、5日(木・祝)
URL  http://www.lfj.jp/lfj_2016/
公式Facebookページ  https://www.facebook.com/lafollejourneeaujapon

小田島久恵(おだしま ひさえ)
音楽ライター。クラシックを中心にオペラ、演劇、ダンス、映画に関する評論を執筆。歌手、ピアニスト、指揮者、オペラ演出家へのインタビュー多数。オペラの中のアンチ・フェミニズムを読み解いた著作『オペラティック! 女子的オペラ鑑賞のススメ』(フィルムアート社)を2012年に発表。趣味はピアノ演奏とパワーストーン蒐集。

Column

小田島久恵のときめきクラシック道場

女性の美と知性を磨く秘儀のようなたしなみ……それはクラシック鑑賞! 音楽ライターの小田島久恵さんが、独自のミーハーな視点からクラシックの魅力を解説します。話題沸騰の公演、気になる旬の演奏家、そしてあの名曲の楽しみ方……。もう、ときめきが止まらない!

2016.04.26(火)
文=小田島久恵
撮影=釜谷洋史