今回の札は「へ」、お題は「ヘアスタイル」です。この連載で髪についてふれるのは初めてですが、実は過去に何度も書こうとしました。最初は「う」(薄毛)。次は「か」(髪型)。そして「は」(ハゲ)。三度も先延ばしにしたのには、理由があります。髪型及び髪がない状態について語るために、自分が持つ偏見を払拭する必要があったからです。
正直に申しますと、私は長いこと髪がない状態(以下「ハゲ」と称します)を「笑っていいもの」だと認識していました。もちろん公衆の面前で指をさしてゲラゲラ笑ったことはありませんが、学生時代に高齢の教師が黒板に向かっている時に友人達と「ハゲてきてない?」とささやき合ったり、ホステス時代に憎らしいお客さんのことを同僚と密かに「ハゲオヤジめ~!」と罵ったり、そんなことを日常的に行ってきたのです。
しかしこの連載を始めて、オヤジ様について深く考えるようになると、ハゲというキーワードがやにわにリアルな「悩み」として感じられるようになってきました。己の意志とは全く関係なく頭髪は抜け落ち、それを阻止するために洗髪回数を減らすと直ちに外見は不衛生の様相を呈し、せめてもの抵抗とばかりに地肌が露出した部位にサイドの毛をかぶせれば「バーコード」と揶揄され、かつらをかぶれば指名手配犯のようにいつバレるかと気が気でなく……これほどまでに八方塞がりだというのに、誰からも同情されない、それがハゲ。あんまりではないか! ……そのような結論に至るまでに、「へ」までかかってしまいました。今は悔い改め、ハゲを笑おうなんて気は毛ほどもおきません。
それでも、です。右耳の付け根あたりの毛を、頭頂部を経由し左耳に届くほどに伸ばして載せていたり、後頭部の毛を長くして頭頂部にトグロ状にしてあしらっているオヤジ様を見ると、さすがに笑ってしまいます。しかしそれは、ハゲを嘲笑しているわけではありません。ハゲを隠したい気持ちが強すぎてこんなヘアスタイルに? と思うことでおかしくなってしまう。つまり問題はヘアスタイルにあるのです。
オヤジの皆様! もしあなたがハゲていても、私は笑ったり揶揄したりしません。ハゲても堂々としろ、などとマッチョなことも言いません。悩み、迷い、恥じながら、それでも前を向いて生きるオヤジ様が好きです。ただし、ハゲを隠したいあまりにトリッキーすぎる髪型にするのは、どうかお控え下さい。私が今回もの申したいのは、この一点限りです!
最後に、孫正義さんがネットでつぶやいたことで有名になった格言をここに捧げます。「髪の毛が後退しているのではない。私が前進しているのである」。日本の全てのハゲオヤジ様に、幸あれ!