「天六」と呼ばれるのは、大阪市北区天神橋筋六丁目。日本一長いことで知られる天神橋筋商店街で、大阪市営地下鉄谷町線と堺筋線、乗り入れしている阪急電鉄千里線の天神橋筋六丁目が最寄り駅。梅田に近くて下町風の親しみがあるエリアとして人気があり、注目の飲食店が次々にオープンしている話題の街でもあります。

 そんな街にある小さなお店が『ナナハコ』。

「ナッツナッツタルト」350円。

 自分で作ったお菓子を、自転車で移動販売したり、イベントや手作り市で販売していた矢澤幸子さんが始めたお店です。「あちこちでお菓子を売って、自分が作ったお菓子をおいしいと言ってもらえて、とてもうれしかった。同じ場所ではなく、色々な場所でいろんな人に出会えるのが楽しくて、お店を持つつもりはなかったんですよ。でも、調理場を持ちたいと思っていて、物件を見て、お店をしてもいいかなと」。

 今は、工房を別に持って、矢澤さんはお菓子作りに専念。日曜日だけ、お店に立っているのだそう。他の日は、フランスで自ら買い付けた雑貨を並べる「気ままな雑貨屋さん」や、マヤ鑑定士、筆跡カウンセラー、バリニーズセラピスト、開運眉デザインをする人や似顔絵を描く人など、様々な方がお店に立ってお菓子の販売を担当。それぞれのファンの人々も訪れるユニークなお店です。

左:3坪の小さいお店。
右:様々な職業の人が日替わりでお菓子を販売。

 矢澤さんは、調理師の資格を取って、イタリア料理店などで働いていました。

「小さい頃、お菓子屋さんをしたいと憧れていましたが、実際に飲食業で働いてみたら、とてもたいへん。でも、お菓子を作るのは、やっぱり大好きだったんです」。

 なかでも、自分で工夫したレシピで作るシフォンケーキは友達にも好評。イベントで売り始めます。そんな時に出合ったのが、ローフード。加熱によって失われがちな酵素やビタミン、ミネラルなどを効率よく摂取することを目的に、加工されていない生の食材を用いた食品を摂る、または、食材をできるだけ生で摂る食生活・ローフーディズムは、1900年代から、欧米で提唱されてきました。

「それまで、体に優しいなんて、気にしたこともなかった(笑)。勉強を始めたら、おもしろくて」。

ひとつひとつ丁寧に手作りされた焼き菓子がずらり。

 ローフードについて学んだ矢澤さんは、「動物性のものが入っていないお菓子を作ってみよう」と試作を始めます。牛乳や生クリーム、白砂糖、漂白された小麦粉などを使わないよう材料を変え、レシピを工夫したら、趣味で作っていたケーキが、今まで食べたことのない味になりました。

「生のフルーツとナッツをそのままでミキサーにかけるのが、もともとあるローフードのケーキの作り方。ローフードのクリームと焼き菓子を一緒にしているケーキは他では見たことがありません。ローフードのクリームで普通のケーキに近づけるように色々考えました」。

「さらに、生のフルーツやナッツをそのままミキサーにかけて、火を通さずにできないかと試行錯誤しました。お菓子はレシピどおりに計量して作るものですが、生のフルーツは1個ずつ味が違う。今も、毎回味見をしながら調整して作ります」。

 でも、材料を厳選すると、お菓子が高価なものになってしまう。いくら体に優しいお菓子を作っても、たくさんの人に食べてもらえない。矢澤さんは、手軽に買える値段の焼き菓子も作って、バランスをとろうと考えました。

「使う材料は、国産の小麦粉、洗双糖、一番絞りの菜種油。卵、乳製品は使いません」。1袋200円はおうちでのおやつに、パック入り500円は気軽な手土産にぴったりです。ローフードではありませんが、添加物を使わない、体に優しいお菓子と言えるでしょう。

「タルト」各種。右下から時計回りに、ローチョコ450円、有機イチゴ420円、黒ゴマ400円、有機レモン400円。

 まず、一番に食べてみたいのが、タルトです。「ローチョコタルト」は、48℃以上に加熱しないで作るローフードの考え方に基づいたクリーム。コクがあって、まろやかで、とてもおいしい。タルトの生地もサックリした歯触り。甘さ控えめなのも魅力。「有機イチゴタルト」は、有機イチゴが生のままクリームに入っています。イチゴの香りが口いっぱいに広がる優しい味わい。

「有機レモンタルト」は、有機レモンの果汁とカシューナッツ、ココナッツオイルのクリームで、さっぱり、さわやか。酸味のすっきり感がたまりません。「黒ゴマタルト」は、クリームにたっぷりの練りゴマを使用。コクがあって、煎茶や抹茶にも合いそう。炒りゴマをトッピングしてあります。

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2014.09.28(日)
文・撮影=そおだよおこ