哀しみ箱の備え

香典袋に、黒いストッキング、白ハンカチ、それと千円札も10枚ほど備えておく。最近しつらえた数珠は京都の安田念珠のもの。喪の小物も自分らしく、小さな真珠と白い房を選んだセミオーダー。哀しみ箱のものは、使ったらすぐに補充をしておくことも大事です。

 冠婚葬祭は人生の大切なセレモニー。どんな人生にも喜びの日と哀しみの日があるものです。年齢的に哀しいニュースが突然舞い込むこともあり、そうしたときの備えの大事さを感じてつくったのが、香典袋や黒いストッキングなどをひとつにまとめて収納した、「哀しみ箱」です。

 最初は結婚式などのお祝いごとアイテムを集めた「慶び箱」もつくっていたのですが、こちらは前もってわかることがほとんど。お祝い先の方に合わせたデザインの祝儀袋や小物など、寿ぎの気持ちを伝える用品も、そのつど個別に選んだ方がいいんじゃないかと。

 対して、哀しみごとは予測できないことがほとんど。そんなときに、古いストッキングしかなくって、しかも破けてた! ってことは、ありがち。

 哀しみの席へは、故人、そして故人のご家族の方々に礼を尽くして駆けつけたい。慌てて支度して、その騒がしい気配を身にまとってお別れを伝えるなんて避けたいし、哀しみにきちんと向き合える心でいたい。だから何もない普通の日に、こうした「備え」を手配しておきます。

石村由起子 (いしむら ゆきこ)
奈良在住。全国からファンが訪れるカフェギャラリー『くるみの木』と、ミシュラン一つ星のホテルレストラン『秋篠の森 「なず菜」』のオーナー。
暮らしを楽しむ祖母の知恵にくるまれて育ち、学生時代には染織を学び、民藝を入口に手仕事に精通。自らのショップで展開する、暮らしの道具のセレクト眼にもファンが多い。さらに近年は、生活プロデュースの視点での商品開発、街おこしプロジェクトなど幅広い分野からオファーが引きもきらない。著書に『私は夢中で夢をみた』(文藝春秋)、『奈良・秋篠の森「なず菜」のおいしい暮らしとレシピ』(集英社)など多数。HP 「くるみの木」 http://www.kuruminoki.co.jp

『暮らしのコツコツ 「くるみの木」石村由起子の生活術』

著・石村由起子
写真・鈴木心、榎本麻美
題字、装画・皆川明
本体1,500円+税

» 立ち読み・購入はこちらから(文藝春秋BOOKSへリンク)

【目次から】
01 家事とごはん:「当たり前」が大事/おいしいもの貯金/忙しくなる前につくるスープ/他
02 インテリア:くつろぎをつくる「椅子と灯り」/片づけグセのつけ方/他
03 心と体:コウハイ人生!/哀しみ箱の備え/うちの酵素シロップ/他
04 身だしなみ:ストール愛/インナー探し/バッグ選びの掟/着替えスペース考/他

2014.07.30(水)
文=石村由起子
撮影=鈴木心、榎本麻美