アラフィフをカラオケに連れ出すきっかけになるか

山口 楽曲も、横山剣らしい洒脱さがありつつ、“アラフィフ感”を意識した感じですね。観てないのに言って申し訳ないですが、良い意味でアンリアルな世界が、ドラマの挿入歌として、はまっている印象です。実際には存在しない“フェイクな大人感”が好きです。

伊藤 「将来(みらい)のちょっと先のT字路」とアラフィフを自虐っぽくいってみたり、「(女)ねぇ、きいて (男)なんて今 (女&男)言ったの?」とちょっと耳が遠い掛け合いだったり、アラフィフによるアラフィフのためのアラフィフを歌った曲になっていますね。もちろんアラフィフ寄りのアラフォー・アラカンにも刺さるだろうし、この世代が“カラオケで歌いたい曲”に選べばヒットってことです。

山口 カラオケヒットって言葉は、あまり聞かなくなりましたけれど、一般層に訴求するのに、歌いたくなるっていうのは、大切なポイントですよね。

伊藤 絶対そうです。

山口 キャバクラ嬢に支持されるとヒットするという俗説が音楽業界にありますが、演歌は歌わないおじさま族とデュエットするネタとして、重宝されるかもしれませんね。

伊藤 逆に、おねーさま族と若い男の子とのデュエットネタかもしれませんよ。世の中における男女の地位が逆転していると言われる時代ですからね。どちらにしても、この曲が歌いたくて「久々にカラオケいっちゃう?」っていうことになると“アラフィフ元気時代”になりそうですけどね。

日本の音楽業界はもっとエルダー層に目を向けるべし

山口 マーケティング的な観点でもエルダー層は重要です。今年の5月の総務省統計局の人口推計資料によると、日本の人口1億2710万人のうち、45歳以上が6576万人で51.74%だそうです。エルダー市場は音楽業界にとっても大切ですね。音楽は若者向けということで、若年層に売るノウハウを積み重ねてきたけれど、その方法論はアジアなどの経済新興国に応用して、日本市場はエルダー対応の宣伝施策をもっと研究するべきですね。

伊藤 特に音楽業界はエルダーマーケティングが下手ですよね。いまだに“女子高生が流行の発信地”という所からマインドシフト出来ていない。人口でいったら今の女子高生なんてマイノリティで、団塊世代~団塊ジュニアまでがメジャーマーケット。必然的にこのマーケットが今のムーブメントを生んでいるんですけど、音楽業界はこのマーケットで流行を生み出す能動的な仕掛けが出来ないでいるから、国民的大ヒットみたいなパンデミックが起きないように思います。

山口 夏のロックフェスが盛んなのも、30代や40代がGパンはいてロックを聴くようになったのが一因ですよ。

伊藤 そういうムーブメントは起きているんですよね。

山口 この曲は「妄想分析」が難しいと思うのだけれど、浮かんでますか?

伊藤 ……。この曲は「最後から二番目の恋」そのものだし、会話も情景も歌詞にしっかり描写されてるから、妄想する余地が殆どないんですよ。でもこんな絵が見えてきました。
 スーツ姿の男は極楽寺の駅を降りると、迷いなく海の方へ歩き出す。大学生の子供がいてもおかしくないくらいの年齢、会社の女子たちに言わせれば“素敵なおじさま”の部類、姿勢は良く力強い足取り。だけど、丸の内を颯爽と歩いている姿が似合いそうなスーツ姿に、この初夏の緑に囲まれた坂道は不似合いだ。星の井通り交差点を右に曲がり海が見えてくると、男は大型犬に引っ張られるように足早になる。国道134号線の頼りない横断歩道を渡り、由比ヶ浜の端っこの砂を踏む。すると波打ち際に立っていた女性が男をみつけ、「おーい!」と言いながら手を振っている。麦わら帽子が風に飛ばされないように左手で押さえながら男のほうに歩いてくる。男も不器用に砂の上を歩き出す。2人は90センチくらいまでに近づき向かい合うと、男は「やぁ」といい、彼女は「靴ぬいだら? バカみたいよ」と笑う。

山口 僕には、わたせせいぞうのイラストが浮かびました(笑)。

小泉今日子&中井貴一「T字路」
ビクターエンタテインメント 2014年6月4日発売
初回盤(CD+DVD) 1,500円(税抜・以下同)、通常盤(CD) 1,000円
■フジテレビ系ドラマ「続・最後から二番目の恋」の劇中歌。「足して100歳」になった2人の関係性をユーモラスに描く詞とメロディー、そしてスウィング調のアレンジによって、ドラマ同様、大人っぽさとキュートさを兼ね備えたナンバーに仕上がっている。
■「T字路」作詞・作曲/横山剣 編曲/鈴木正人
■オフィシャルサイトURL http://www.jvcmusic.co.jp/tjiro/

【動画サイト】「T字路」
URL https://www.youtube.com/watch?v=xVCn-Etz8rs

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2014.05.30(金)
文=山口哲一、伊藤涼