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驚きの魚も使われた春爛漫のパスタ

 さて、この春パスタ一番の驚きはふぐが使われていたこと。ソテーしたふぐがパスタにのっているのみならず、パスタ自体にふぐのだしがからめてあるという繊細さ。しかも春キャベツ、タケノコ、ブロッコリーと、これでもかと春を投入。全体の造りは繊細なんだけれど、素材の構成はパンクな感じという、この感じにもいつもグッときちゃうんだよなぁ。と、パスタを前に秋月さんの素材の組み合わせをしみじみ考察しちゃいました。

 どうやってこんな組み合わせを思いつくのか聞いてみると、ふっと浮かぶんだそうで……。「そんなはずない!」と突っ込んでみると、季節の素材を全部並べて、これとこれを組み合わせてみようか、と、ちゃんとスタッフの方と話し合ったりもしているそうです。

 とはいえ、何か料理が決まってから食材を当て込んでいくのではなく、季節はもちろん、この鎌倉という場所に寄り添い、出回る食材を大切に料理が生まれ出ていることは確か。だから、秋月さんの料理はよく創作イタリアンなどと言われがちだそうですが、私にしてみれば、創作というより、自由料理という感じがしっくりくる感じ。ご本人がおおらかでのんびり自由ということもあるのか、作る料理もそれ、そのまんま。もちろん、繊細さを伴っての話ですが。

 そんなAkizukiの料理はコースのみ。昼が7品で6,600円。夜が9品で9,900円。毎月変わるので、毎月、秋月さんの自由料理を楽しみにくる人があとをたたず、なかなか予約が取れないのが私の悩み。みんなおいしいものを食べるにはちゃんと計画してるんだなぁと反省。つい、いつも今日何食べよう! くらいな気持ちでいて、なかなか先のことを決められない私ですが、この春は、ちゃんと予定して春を満喫するぞ! と鼻息荒く、手帳をチェック。

 ところで秋月さんがそれぞれの料理に選んでくれたワインはこの3種。私がほぼ白しか飲まないので、白が2種と赤1種。

 写真左は、北海道の「蘭越いとう農園」のKamisato blanc。ワイナリーのど真ん中にある木が描かれたエチケットが印象的で、50歳でワインづくりの世界に飛び込んだという方が造るワインです。中央はイタリア・エミリオロマーニャ「il maiolo」の赤ワイン。右は、フランス・ブルゴーニュのジュリアン・ギィヨによるMACON VILLAGES。6世紀から一度も農薬を撒いたことのない土地で作られたブドウで造られたとびきりのものです。

 とにかくよく飲み、よく食べる私は一人で出かけてもボトルを頼むことが多いんです。その方が気にせず、いっぱい飲めるからといういい大人としてあるまじきセコい理由なんですが、秋月さんのところでは料理に合わせてグラスで、ということがほとんど。料理とともにどんなワインをおすすめしてくれるのかも、楽しみのひとつになりました。

 というわけで、そろそろ急がないと春が終わってしまいますからね。まずは予約、予約!

Akizuki

所在地 神奈川県鎌倉市山ノ内1386-2
電話番号 0467-53-8740
営業時間 ランチは土~火曜 12:00~、ディナーは月・火曜、金曜 18:30~、土・日曜・祝日 18:00~(すべて一斉スタート)
定休日 水・木曜
Instagram @akizuki_kitakamakura
※昼夜ともおまかせコースのみ。要予約。

赤澤かおり(あかざわ・かおり)

料理雑誌の編集部を経て、フリーランスに。料理と旅の編集者として活動。料理本のほか、30年以上通い詰めるハワイについての執筆、単行本編纂も多数。近著に「人生にはいつも料理本があった」(筑摩書房刊)。
Instagram @kaoriakazawa.akalohasunny

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2024.04.21(日)
文=赤澤かおり
撮影=榎本麻美