『魔女の宅急便』の主人公キキは13歳。映画は、彼女が故郷を離れて魔女の修行に出るところから始まる。魔女が修行に旅立つのは満月の夜という決まり。彼女が急に旅立ちを決めたのは、今夜が「素晴らしい満月の夜」だと天気予報で知ったからだ。

 キキは、自分なりに、自分の旅立ちをステキなものにしたかったのだろう。そんな年頃の女の子の思いに寄り添うように、キキの旅立ちとともに、ラジオからは「ルージュの伝言」(荒井由実)が流れてくる。

 この「ルージュの伝言」とエンディングに流れる「やさしさに包まれたなら」は単に映画の顔としての主題歌というだけでない。キキを取り囲む様々なキャラクターを経由することで、キキの内面を感じさせる重要な役を担っているのだ。

「一人暮らしを始めたキキ」とさまざまな女性キャラクターたち

 魔女の修行とは、自分で見つけた町に1年間住むこと。宮崎駿監督は、この部分を映画の骨格と見定め、本作を「僕らのまわりにいるような地方から上京してきて生活しているごくふつうの女性たち」の物語として制作することを決めた。

 当初はプロデューサーの予定だった宮崎が自ら監督するなど、途中で状況は大きく変わったが、「一人暮らしの女性の物語」という柱は揺るがなかった。

 キキが一人暮らしを始めたのは、故郷とは比べ物にならないぐらい大きなコリコの町。海に囲まれ、丘の上には時計塔がある美しい町だ。

 映画は、そんなキキの周囲に、様々な年齢の女性キャラクターを配した。彼女たちとの交流によってキキは、不慣れな一人暮らしの日々を乗り切っていく。

(1)グーチョキパン店のおかみさん・おソノ

 コリコの町にやってきたキキが、まず親しくなったのはグーチョキパン店のおかみさん・おソノ。おソノと知り合ったキキは、グーチョキパン店の屋根裏部屋に居候することになる。

 キキが風邪を引けば、様子を見にきてくれるおソノは、コリコの町におけるキキの保護者的な存在ということができる。しかしおソノは、当然ながらキキの母親コキリとはまた異なる接し方でキキと心を通わせる。

2024.04.01(月)
文=藤津亮太