――それではみなさん投票をお願いいたします。結果は、僅差で、『今日の花を摘む』が受賞作に決定しました! 白熱した議論をありがとうございました。

この一年でおすすめの恋愛小説は? 

 ――最後に毎年恒例ですが、2023年に読んで印象に残っている恋愛小説を伺えますでしょうか。

 花田 私は川上弘美さん『恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ』(講談社)です。小説そのものや恋愛をこれから考えていく上で、新たな境地を切り開いていると感じました。がつがつして、強く心を痛めたり傷ついたりしなくていいし、穏やかな中にちゃんと芯があるような関係性が描かれていて、大人の恋愛小説って何だろう? と考えるときの、ある種の新しい答えだと思いました。恋愛小説かと言われると、こちらもまた難しいのですが……。

 高頭 私も読んで、心が近づいたり離れたりする様子がすごくよかったです。彩瀬まるさん『花に埋もれる』(新潮社)も印象に残っています。幻想的なものを恋愛に絡めて描いていて美しいのですが、人を愛することの苦しさ、どうしようもなさも描かれている。実際におすすめした方から「すごく良かった」という反響もいただきました。ぜひ読んでみてください。

 川俣 私は深沢仁さん『眠れない夜にみる夢は』(東京創元社)を推します。五作収録されている短篇集で、中でも三角関係のような恋愛を描いた「明日世界は終わらない」がよかったです。

 山本 深沢さんの本は僕も挙げようと思っていました! 「家族の事情」という短篇がいいなと。共依存の関係にある双子が、ある人物に抱く恋心の描き方がすごく良くて、おすすめです。あと、先ほどもお名前を出した、紗倉まなさん『ごっこ』も推薦します。恋愛に限らず、あらゆる関係のままならなさが丁寧に描かれています。

 加藤 この一冊というおすすめはできないのですが、恋愛の在り方も様々で、友情もあり、戦火を生き延びる展開もありと、小説の幅がぐっと広がっていると思います。一歩踏み出す勇気をもらえる作品が増えて来て、とても良い時代になってきたのではないかなと思っています。

2024.03.28(木)