川俣 とにかく面白い。「花摘み」という恋愛スタイルには全く感情移入できませんでしたが、それでも面白がれる自分がいたので、不思議な感覚でした。愉里子の立場や状況には共感できるんですけどね……。

 加藤 たしかに性の部分に関しては、拒否感を持つ人もいるかと思います。

 高頭 「花摘み」という言い方がまずユニークですよね(笑)。主人公が20代の女の子だったり、ひと昔前の日本を舞台にしていたら、愉里子って良くは書かれない人物だと思います。でも、この主人公は自分の愉しみをすごく爽やかに実践しているし、達観して生きている。性的な不満も、男性に対してスパッと言えてしまいますしね。

 花田 候補作の中で、唯一うんこを漏らせる主人公ですよね(笑)。性をあけすけに描く作品で、かつ女性の主人公となると、「私、エッチが大好きなの」と露悪的に描く作品が多いと思います。でも、愉里子はそういった気持ち悪さを全く感じさせない。ナチュラルな生きがいや楽しみの一つとして「花摘み」が存在しています。

 山本 更年期を迎えた愉里子は、体の変化にずっと向き合っていますよね。それに伴って、彼女の恋愛も変化していくのも面白いところでした。万江島と彼女が出会ってすぐの頃、性に関してきちんと対話をします。互いに答えを返しあうところも、上手いなと思いました。なおかつ、他の世代との連帯がどんどんと盛り上がる展開もよかったです。

 高頭 後半に出てくる社内のセクハラ問題も読ませますね。私は愉里子と同世代ですが、後から思うともっと怒っていればよかったと思うことが結構あります。曖昧に笑顔で逃げるしかなかったケースって、どうしてもあるんです。「やめてください」とみんなで言えていたら、今の世の中がもうちょっとましなものになっていたかもしれないな、もっとやるべきことがあったのではないかなと、最近考えることもあります。そういう私自身の反省と、主人公の気持ちがシンクロする部分もあったし、問題にうまく対処しようとして、被害者である部下から反発されたりする場面も、ものすごくリアルでした。

2024.03.28(木)