この記事の連載

「だれが、忙しいときに、シュウマイ作るんですか⁉」

――先生の提唱する「一汁一菜」は、まさにセオリーですよね。

 そう、基本の食事のスタイルです。何でも「型」が必要です。そこに幅ができて深さができてくるのが魅力です。お味噌汁は、湯に味噌を溶いたら味噌汁になると言うことを知ってください。昔ながらの製法で長期熟成したお味噌ならおいしいものです。そこにカツオの削りぶしを一つかみ入れれば、沖縄で親しまれる「カチューユ」です。味噌汁はカツオと昆布で出汁を取らないとおいしくならないと言うのは、間違った思い込みです。具沢山の味噌汁は、何でも野菜を入れて、肉でもベーコンでも入れて、あとは水をいれる。全てのものから味がでて、絶対においしくなります。どうぞ、やって確かめてください。トマトや、ピーマンを具にしてもいいし、出来上がった味噌汁にバターを落としてもいいのです。どうぞ味噌を信じてください。

――なんのお出汁でもいいんですね。

 はい、何からでも出汁がでます。出汁といえば、カツオ、昆布、煮干しとなるけれど、出汁というよりも食材から考えて、食べてしまえばいいです。昆布は先に小さく切っておいてもいいと思います。

――土井さんは、どのように一汁一菜に行き着いたのですか?

 人は忙しいときに、なにもシュウマイを作ったりしないでしょう? 忙しい時に普通にしていたことが一汁一菜でした。ご飯を炊いて味噌汁さえ作れば大勢の人が食べられる。漬物は切るだけでいい。料理屋の賄いでも、我が家で忙しい時も、それでみんな大満足です。

 日本にはケハレという日常と非日常の区別がありますから、健康に生きていくための日常は、具沢山の味噌汁とご飯だけでいい。気持ちに、時間に、お金に余裕のある時に、食べたいもの、家族に食べさせたいものを作ればいいのです。すると料理は全てが楽しくなります。余裕があるときには、なんかそこに足していけばいい。

 映画の中にも出てきますが、フランスでも日常生活ではパンとチーズと水から作った野菜スープがフランスの一汁一菜です。日曜日にローストした肉の残りがあればちょっと食べるけど、ってそんなもんなんです。フランスだって忙しい時にグラタンを作ろうなんて思わない。チーズとパン、温かいスープで十分です。

――そこを基本にする、と。

 そう。一汁一菜は世界中にある暮らしの土台です。たとえば朝起きて顔を洗うのに、苦しいとか楽しいとかないでしょ。起きて顔洗って身支度してお風呂入って掃除して……そのひとつが食事、っていうことでいい。「これさえ食べていたらええ」という一汁一菜を知っていればいいんです。事実死ぬまで、ずっと三食一汁一菜で元気に生きられる。今以上に心身健康になれます。

2024.03.09(土)
文=吉川愛歩
撮影=細田 忠