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 雪深い新潟県十日町市の松之山温泉で、300年の歴史を持つ奇妙な祭りが行われているのをご存じだろうか。自分の村の娘と結婚したよその村の「むこ」を腹いせに投げたことから始まったとされる「むこ投げ」。大雪が降る中、この豪快かつユニークな祭りを取材してきた。

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猛烈に雪が降っていたが……

 「むこ」を崖の上から投げ落とす、その名も「むこ投げ」。どストレートな名前のこの祭りは、新潟県十日町市の松之山温泉に伝わる小正月の立派な行事のひとつである。何でもその昔、村の男たちが「よその村の男に村の娘をとられて悔しいから投げた」という、これまた「ええええ?」な理由から始まったといわれる。そんな男の嫉妬がいつしか行事に昇格して300年も続いているのだから祭りって面白い。

 「むこ投げ」当日、上越新幹線で新潟へと向かった。青空の広がっていた東京とは打って変わって越後湯沢駅は猛烈に雪が降っていた。ホームに降りれば、屋根の隙間から見える空はどんよりと暗く、ビチビチと礫のような雪が当たる。「ひっ!」と顔を覆うと、地元の人らしきおばあさんに「え~? これくらい普通だが」と笑われてしまった。

「関東平野だったら電車も止まるし、救急車が走り回ります」

「降る時はもっと降るすけ。おねーさん、どこさいくだ?」

「松之山温泉のむこ投げに。こんな吹雪じゃお祭りができるか心配です」

「んあ? 雪ん中飛び込むんだーすけ、雪はふっとつ(たくさん)あったほうがいいさ~」

 と、さらに笑われてしまった。そりゃ、ごもっとも。

 バスに1時間ほど揺られていると、長野県との県境、十日町市にある松之山温泉郷が見えてきた。この温泉郷は、今から700年ほど前、山に入った一人の木こりによって発見されたそう。一羽の鷹が傷ついた羽を休めているので、不思議に思って近づいたところ熱泉を発見したことから、松之山温泉の源泉名は「鷹の湯」と呼ばれている。

 古い町並みが残るメインロードを歩いてみよう。多い年には4メートル以上の雪が積もるという日本有数の豪雪地帯だけあって路肩には雪がこんもり。目を開けていられないほどのぼた雪でも地元の小学生は手袋も傘もなしでノシノシと歩いている。おばあさんの言った通り、このくらいは普通なのか。

2024.02.25(日)
文・撮影=白石あづさ