この記事の連載

山脇麻生さん[ライター・編集者]

Q1:夜ふかしマンガ大賞に推薦する作品は?

●『秒速5000km』マヌエレ・フィオール、翻訳:栗原俊秀、ディエゴ・マルティーナ/マガジンハウス

 肌を刺すようなイタリアの日差しのなかで出合ったふたりの少年とひとりの少女が恋に落ちて……。

「彼らの人生の6つの場面を断片的に見せながら、140頁に20年の歳月を圧縮した、まさに真夜中に読んでもらいたい大人のためのグラフィック・ノベルです。この作品にはモノローグやナレーションが一切ないのですが、美しい色彩やみずみずしいタッチで描かれた表情から、キャラクターの深い心情が伝わってきます」

●『発達障害なわたしたち』町田粥/祥伝社

「『フィール・ヤング』連載中からずーっと『早く単行本にならないかなぁ』と楽しみにしていた作品。軽度のADHDと診断されたマンガ家と担当者が、大人の発達障害当事者たちにお話しを聞いていくコミックエッセイです。みなが困りごとを吐露し合うときのフラットさ、そこに向けての環境調整の仕方が具体的に示されていて、ふむふむと唸りながら読んでいます。コミックエッセイは自分や周囲のことを描くわけですから、繊細なアクセルとブレーキが求められますが、その加減も絶妙! 帯にある“『自分』という暴れ馬に振り落とされそうな人たちへ。ここに仲間がいます。”という優しさ溢れる一文も素敵です」

●『ローズ ローズィ ローズフル バッド』いくえみ綾/集英社

「40代の女性マンガ家・正子さんが主人公のマンガ家マンガ。少女マンガ誌でデビューしたものの、その後、低迷。大幅に路線変更したキャラもの作品が人気となって17年間連載を続けてきましたが、やっぱり王道少女マンガを描きたいと一歩を踏み出します。と同時に、久しぶりの恋も始まって……。キャリアを重ねてきたからこその仕事の悩みと喜び、自立した者同士の恋、気力や体力が下り坂になってからの両立の難しさ……。CREA読者が気になる内容がギュッと詰まった作品だと思います」

Q2:人生で影響を受けたマンガは?

●『火の鳥』手塚治虫/角川文庫

 超生命体である火の鳥を狂言回しに、過去と未来を交互に描きながら、テーマである「生と死」「輪廻転生」といった哲学的な問題を深くえぐっていく、手塚治虫の代表作。

「小学校のときに友人の家で読んで、すべてを理解できたわけではないけれど、描かれていることの深さに衝撃を受けました。帰り道、雨が降ってきたんですけど傘を持っていなくて、自分の身体からふわ~と白い煙が出てきたのを覚えています。いま思えば、脳がオーバーヒートしたんでしょうね」

Q3:夜ふかしマンガの楽しみ方は?

「湯船に浸かりながら読むことが多いです。飲み物休憩を挟みつつ、気がつけば2時間ぐらい経っていることもあります」

Q4:いま、特に注目している作品は?

●『ワンダンス』珈琲/講談社

「注目している作品も最新刊を買う作品もたくさんありすぎて絞るのが難しいのですが、珈琲さんの『ワンダンス』は、巻を追うごとに熱さが増していて、グッときます。3次元のダンスと目に見えないビートを多重的に1コマのなかで成立させるセンスと技量が素晴らしいと思います」

Q5:いま、読み返したい名作は?

●『百日紅』杉浦日向子/ちくま文庫

「文化文政期の江戸に生きる葛飾北斎と娘のお栄が主人公の連作です。特に好きなのが『鬼』というお話。お栄がある人に頼まれて地獄絵を描いたら、超絶ウマくて鬼を呼び寄せてしまい、クライアントの嫁がおかしくなってしまう。そこで北斎が『てめえはいつだって描いたら描きっぱなし。“始末”をしねぇから悪い』と言って、地獄絵の片隅に地蔵菩薩を描くんです。で、それ以降、鬼は出なくなるという。技巧に走りすぎず、ヌキどころを作る北斎のかっこよさに痺れます」

Q6:期待の新人作家とその作品は?

●『氷の城壁』『正反対な君と僕』阿賀沢紅茶/集英社

「10代の繊細な心理や行動の解像度がとにかく高い。キャラクターひとりひとりに血が通っていて、『出てくる子たちみんな好き!』ってなりながら読んでいます」

山脇麻生(やまわき・まお)さん
ライター・編集者

マンガ誌編集を経てフリーに。各紙誌でコミック評及びコミック関連記事、脚本などを執筆。インタビュ―や食、酒にまつわる取材も手がける。

2024.02.01(木)
文=大嶋律子(Giraffe)