――デビュー作『颶風の王』(KADOKAWA)の時から、自然描写と動物の描写には圧倒されます。これまで熊以外にも馬や鳩やいろいろな動物を書かれていますが、動物を書きたいという気持ちは強いですか。

河﨑 書く時の選択肢の中に、最初から人間同様に動物が入っていますね。自分が全然知らない動物、たとえばマントヒヒを書けと言われたら、習性を勉強するところから始めなければいけないのでちょっと困るんですが。でも、知らない動物の知らない習性を勉強するのは楽しいです。

 人間の描写も同じですよね。自分には想像もつかない生き方をしているタイプの人を研究して物語の中に落とし込めるかどうかを考えるのは、趣味が悪いかもしれないけれど、楽しいです。

 

人を殴るような文章を書きたい

――どの作品も文章世界が素晴らしいのですが、以前「人を殴るような文章を書きたい」とおっしゃっていましたね。

河﨑 私も上品な人間ではないので(笑)。読み手としても、否応なしに物語の中に引きずり込まれる小説にすごく魅力を感じるので、『ともぐい』に関しては引きずりこむことを意識しました。一方で、静かに後ろから忍び寄ってきて包み込んでくるような物語も好きです。両方書けるようになるのが、作家としての技術的な面での目標ですね。

――河﨑さんはデビューされた時も羊飼いをされていたわけですが、よく執筆の時間を確保されていましたね。

河﨑 若かったので、体力があったんです。でもやっぱり物語のほうに注力したいというのがあって、2019年に専業の作家になりました。

――先ほども言ったように明治~昭和の北海道を舞台にした作品が多いですが、必ずしもそれにこだわっているわけではないそうですね。『介護者Ⅾ』(朝日新聞出版)のように、コロナ禍の札幌で父親の介護をしながら生活する女性の話も書かれていますし。

河﨑 書きやすいのはやはり北海道ですし、昔のことを書くのが多いのは単純に、俯瞰しやすいというのがあるかなと思います。物語を組み立てる上で冷静に俯瞰することは必要ですので。それに、昔の人のほうが無茶しますから、物語として書きやすいというのもあります。

2024.02.07(水)
文=瀧井朝世