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 フジテレビ・プロデューサーの村瀬 健さん。昨年手掛けたドラマ『silent』は多くの人を夢中にし、ロケ地にファンが詰めかける社会現象に。テレビ離れが叫ばれる中、ヒットドラマを次々と生み出す村瀬さんは、『巻き込む力がヒットを作る “想い”で動かす仕事術』(KADOKAWA)を上梓しました。

 この日もドラマのロケから取材場所へと駆け込んできた多忙な村瀬さん。仕事のスタイルについて、また現在放送中のドラマ『いちばんすきな花』について伺いました。

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「僕が、ドラマのすべてに口を出す理由」

――村瀬さんが著された『巻き込む力がヒットを作る “想い”で動かす仕事術』には、プロデューサーの仕事が具体的に書かれています。ドラマに限らず企画に関わる仕事に広く役立つ部分もありますし、コミュニケーション術としても参考になることがあるなと思いました。

 わ。僕、いま初めて本の感想を聞きました。まだ発売したばかりなので。大丈夫でした? ちゃんと書籍として成立してました?

――もちろんです。村瀬さんが実際に作った企画書そのものが掲載されていましたが、それがとても興味深くて。

 あれは正直、載せるか迷ったんですけどね。手の内を見せてしまって、これで自分のポジションが脅かされてしまうかもしれないって(笑)。ただ、あの企画書には、僕の想いがこもっているので、せっかくなので見てもらおうと。

――その部分こそ、真似できないところですね。本の中で、「作品のすべてに口出ししている」という部分が印象的でした。いったいどこまで口を出しているんでしょう?

 本に収録されている川口春奈さんのインタビューで「とにかく何でも介入してくる」と言われてましたよね。それは本当で(笑)。とにかく全部に口を出します。たとえば『いちばんすきな花』ならば多部未華子さん演じるゆくえが勤めている塾の生徒、希子ちゃん(白鳥玉季)。彼女の制服をどうするかとか、僕、色々と意見を言っちゃいました。最初は「グレーのセーラー服がいい」と伝えたんです。以前手掛けた『14才の母』(日本テレビ)で志田未来さんが着ていて、その時のイメージに近い気がしていたのでグレーがいいんじゃないかと。でも、衣裳合わせで実際に白鳥さんに着てもらったら、私立っぽさが際立ってしまって、今回のキャラクターには合わなかった。だから即やめました。

――やめる判断も早いんですね。

 結果的に「これは違ったね」となったとしても、一度は試したいんです。トライを通じてみんなとコミュニケーションもとれるし。

――細かいトライ&エラーを通じて、ディテールに想いが宿っていくわけですね。『silent』のタイトル表記を小文字のローマ字にすることにこだわったお話も書かれていましたが。

 僕、元々フォントとかデザインが大好きで。学生時代はいつも筆ペンで字を書いていたんですよ。特徴のある字を自分で作っていて、日本テレビのエントリーシートも全部筆ペンで書いたんです。それが人事部で話題になったらしくて、入社2年目に会社案内を書いてほしいと依頼が来て、その年は日テレの技術職の募集要項パンフレットがぜんぶ僕の文字になりました。

――そんなことが!

 その片鱗が企画書にも残っているのかもしれません。ドラマのテロップも大事にしています。役者の名前の文字はどんなフォントにするべきか、「次回予告」の文字はどうするのか。ふつうはこのあたりは監督の仕事なんですけど、僕のドラマのときは編集の皆さんがいつも僕のところにフォント集を持って相談に来てくれます。監督よりも僕の方がこだわるってことを知ってくれてるんです。

――ふつうのドラマ現場とは違うフローで動いていたりもするわけですね。

 こうやってあらゆることに口を出せるのは、全てのポジションを「この人になら任せられる」と信頼している人にお願いしているからです。その人たちは僕がいくら言っても違うと思ったら「それは違う」と言ってくれる。だからこそ、安心して介入できるんですよ。

2023.12.21(木)
文=釣木文恵
写真=深野未季