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 2023年、ローマと東京において、相次いでブルガリ ホテルがオープンを果たした。客室、ダイニング、バー、スパ……すべてのクオリティは、軽々と想像を超える。

 世界中の羨望を集めるハイブランドが手がけるホテルの秘密とは? 3回に渡りブルガリ ホテルの魅力をご紹介。今回は洗練を極めたデザイン、愉悦のガストロノミー、真摯なホスピタリティを満喫できる、ブルガリ ホテル 東京。


透徹した美意識が生んだ巧緻な手仕事の数々

 東京駅の東側一帯に細長く横たわる街、八重洲。その地名は、オランダ商船の航海士として九州に漂着後、徳川家康より旗本の身分を授かり重用されたヤン・ヨーステンの日本名「耶揚子」に由来する。

 2023年4月、歴史の薫るこの一等地に、ブルガリ ホテル 東京が開業した。

 東京ミッドタウン八重洲の最高層部、40階から45階までを占めるこのホテルは、首都を見晴るかす絶景に恵まれている。

 世界に冠たるラグジュアリーブランドが手がけるだけあり、その細部に至るまでを貫くのは、透徹した美意識。

 エレベーターを降りたゲストがまず足を踏み入れる40階のパブリックスペースでは、誰しも、巧緻な手仕事の施されたディテールに圧倒されるに違いない。

 ロビーやダイニングにおいてスペースを区切るニレ材のアーチは、ローマのコンドッティ通りにあるブルガリ本店のそれを模しながら、日本の神社仏閣の建築様式を特徴づける火灯窓も連想させる。

 漆黒の壁面を彩る扇形の文様の着想源はといえば、孔雀の羽を重ねて描いた東洋の青海波であり、また、ブルガリのコレクション「ディーヴァ ドリーム」に影響を及ぼしたカラカラ浴場の意匠でもある。

 ここでは、異なるルーツを持つ文化的コンテクストが、自然に溶け合う。

 ギャラリーでは、ブルガリ史を彩るアイコニックなジュエリーを展示。特に注目すべきは、霊峰富士と松の木をモチーフとする70年代の「マウント・フジ ブローチ」だ。

 日伊の美学のマリアージュたるこの名品を元にしたデザインは、ホテルの象徴として、館内の様々な場所で目にするはず。

 「イル・リストランテ ニコ・ロミート」は、天井の高い広壮な空間において、木の温もりに包まれてイタリアンを賞味できる至福のダイニング。

 伝統にしっかりと立脚したレシピは、そこに留まらぬコンテンポラリーな創意工夫を加えることで、目を見張る進化を遂げている。

 日本ならではの美食を提供するのが、「Sushi Hōseki - Kenji Gyoten」だ。

 8席のみのカウンターで、小さな枯山水を愛でながら“おまかせ”の鮨を味わう体験は、忘れられない思い出となる。

 そして、これぞ豪奢の真骨頂と息を呑むのが、「ブルガリ スパ」。25メートルのスイミングプールの内壁はエメラルドグリーンのモザイクタイルに覆われ、透明な水の奥で高貴な光彩を放つ。

 心身のウェルビーイングを追求したトリートメントも秀逸。サイエンスに基づき、ゲストそれぞれに合わせたビスポークの施術を行ってくれる。

2023.10.16(月)
文=下井草秀
撮影=嶋崎征弘

CREA Traveller 2023 vol.4
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

ホテル、非日常への誘い

CREA Traveller 2023 vol.4

ホテル、非日常への誘い

定価1,500円 (税込)

「CREA Traveller」2023 vol.4の特集は、「ホテル、非日常への誘い」。