パリコレデザイナーに新たな道をもたらしたのは、サンタクロースのぬいぐるみ

──オートクチュールデザイナーの下でキャリアをスタートし、海外コレクションで作品を発表されている久保さんにとって、大量生産品のリメイクは異色のお仕事だと思うのですが、何か思うところがあったのでしょうか?

久保 福屋社長のSMASELLの取り組みがまさにそうですが、ファッション業界で「サステナブル」はここ数年のキーワードになっていて、いくつかお誘いもありました。そうした企画に乗ろうと思えばいつでも乗れる状況だったんですが、「いっちょかみ」するのはかっこ悪い気がしてこれまでは関わってきませんでした。

 サステナブルというキーワードを使って表面をなぞるだけなら、寧ろ何もしないでおこうと思っていたんです。でも、ちょうど色々と考えることがあって。

 僕は東日本大震災のときを除いて15年間ショーをやり続けているんですが、東京、ミラノ、フィレンツェ、パリでショーをやり、「Rakuten Fashion Week TOKYO 2023 S/S」では楽天さんから多大なサポートをいただいて、昨年ひとつの山場を迎えました。

 その後に、「そろそろ新しいことを始めないと、服が作れなくなる」という危機感を覚えたんです。

 残りの人生で何を残せるのかという漠然とした切迫感が出てきて、「そろそろ世の中に良いことをしたい」と思いました。そんなとき、実家の倉庫でホコリをかぶった袋を発見したんです。開けてみると、洋裁の仕事をしていた母が弟のために作った、サンタクロースのぬいぐるみが出てきました。当然古いし、汚れているんですが、弟としては捨てられなかったんでしょうね。

 僕自身もそれを見て、母が仕事の合間にパッチワークでそのぬいぐるみを作っていた姿を思い出しました。一針ひと針丁寧に。当時の僕の目に、それは母の技術と手間の結晶として映っていたんです。

 そのサンタクロースのぬいぐるみがきっかけで、「しっかりと考え尽くして丁寧に作り上げた唯一無二とも言える一着を作ることができれば、簡単に“消費”されることなく、ずっと長く愛着をもって着続けてもらえるはず」という考えに行き着きました。

 懐かしくも新しい、暮らしに寄り添った心地良い服作り。今の時代のファッションに求められているのは、そういうことなんじゃないかと思っています。

 そう考えたとき、リメイクやアップサイクルは、自分にとって自然な選択肢のひとつになりました。それで、廃棄予定のキャンセル品をリメイクするというプロジェクトへの参加を決めました。

2023.09.15(金)
文=松山あれい
撮影=平松市聖