人と人の距離の変化を描くこと

――『麦子さんと』もいろいろな視点から見ることができる作品だと思いますが、もし見どころみたいなものがあれば教えてください。

 この映画って、宣伝で言っている“ヒロインが母親の過去を知る云々”というのは、2人の距離を縮めるワードの一つでしかないんです。単純に、ヒロインが自分の中の母親に対しての壁を少しずつ壊して、素直になっていく物語ですから。でも、それによって生まれる喪失感の話でもあるんですよ。俺はどの映画も基本的に人と人の距離の変化を描いているわけで、今回は死んでしまったお母さんと麦子の変化。それは誰もが、ある程度は経験していることだと思うので、これまでの映画よりはとっつきやすいかもしれませんね。

――来春には人気コミック映画化の『銀の匙』も公開されますが、今後目指すところは?

 娯楽として、宇宙人が攻めてきてドカーンという映画は好きだけど、自分が監督として描くうえでは、人と人の距離の変化にしか興味がないんです。だから、今後もそういう映画を撮っていくと思うんですが、最近、結構いい人だと思われちゃってるみたいなんですよ。確かに2013年は「いい人イヤー」だったので、14年は「あいつ、大丈夫か?」と思われるようなオリジナル脚本の映画を撮ってみたいですね。『ばしゃ馬さんとビッグマウス』から『銀の匙』までの3本で封印されていたヘドロみたいなものを、次の作品で一気に吐き出す。そうしないと、俺自身が本当にいい人になっちゃいそうで、なんか怖いんですよ(笑)。

吉田恵輔(よしだ けいすけ)
1975年5月5日生まれ。埼玉県出身。東京ビジュアルアーツ在学中から自主映画を制作すると同時に、『悪夢探偵』など塚本晋也監督作で照明を担当。2006年に撮った自主映画『なま夏』が「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門でグランプリを受賞。そのほかの監督作に、『純喫茶磯辺』『さんかく』などがある。

『麦子さんと』
声優を目指す麦子(堀北真希)が、兄・憲男(松田龍平)と暮らすところに、かつて二人を捨てた母・彩子(余貴美子)が戻ってくるが、間もなく病のために、帰らぬ人に。納骨のため母の故郷を訪れた麦子は、そこで自分の知らない母の一面を垣間見ることになる。
http://www.mugiko.jp/
(C) 『麦子さんと』製作委員会
12月21日(土)、全国ロードショー

くれい響 (くれい ひびき)
1971年東京都出身。映画評論家。幼少時代から映画館に通い、大学在学中にクイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。その後、バラエティ番組制作を経て、「映画秘宝」(洋泉社)編集部員からフリーに。映画誌・情報誌のほか、劇場プログラムなどにも寄稿。

Column

厳選「いい男」大図鑑

 映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。

2013.12.21(土)
text:Hibiki Kurei
photographs:Mami Yamada