「いい時も悪い時も」同世代の仲間の頼もしさ

 どんな慰めや励ましの言葉よりも右近さんの心に響いた巳之助さんの心遣い、初日前からふたりの関係性はすでに出来上がっていたようです。何人もの先人たちがそうであったように、ふたりによる弁天と南郷は令和の名コンビとしてこれからも上演を重ねていきそうな気配が濃厚です。

「せりふのちょっとした合間に巳之助さんの目を見ると、必ず巳之助さんもこっちを見てくれているんです。その瞬間にまた気持ちが乗ってもう一発行ける! って感じになるんです」

 弁天と南郷は、日本駄右衛門をリーダーとする“白浪五人男”と称される盗賊団のメンバーであとのふたりはかつて主従関係にあった赤星十三郎と忠信利平。駄右衛門に坂東彦三郎さん、赤星に中村米吉さん、忠信に中村隼人さんという配役です。一世代上の彦三郎さんは日頃から舞台を共にする機会も多く右近さんが幼い頃から頼りにしている先輩で、米吉さんと隼人さんは公私ともに親しく切磋琢磨しあってきた同世代。

「いい時も悪い時も、それこそ失敗して恥をかいたり傷ついたりしている姿もお互いに見てきている。そうやってそれぞれが辿って来た道があって、こうして一緒に芝居ができるって幸せなことだなあ、と思います。一緒にやっていてすごく面白いし楽しいし、そういう存在がいてくれることがありがたい。20代後半ですらそう思えるわけでこの先それがどれだけ深くなっていくのかと思うと、かけがえのないつながりです。これこそが僕らの強みなんだと思います」

 右近さんは3月から歌舞伎座に連続出演中で、、6月は久々の上演となる舞踊『猪八戒』で孫悟空を演じます。そして7月は第一部の『當世流小栗判官』と待望の再演となった第三部『風の谷のナウシカ』でそれぞれ2役を演じます。歌舞伎を越えて幅広く知られるキャラクターや激しい恋心に苛まれる娘、身分ある人物などさまざまな姿で楽しませてくれることでしょう。

「まさに今、若手の夢を乗せてみんなで先へ進もうぜ! という思いです。歌舞伎をまだご覧になったことのない方々にそんな僕らを発見してもらえるようにならなくては! そして20年、30年と僕らと並走していただけるような、お客様とそんな関係性が築ける役者でありたいと思っています」

 右近さんだけなく若手歌舞伎俳優の活躍の場は着実に広がりを見せています。今のこの時だからこそ! の彼らの輝き、ぜひ劇場で体感してください。

尾上右近(おのえ・うこん)

1992年生まれ。清元宗家七代目 清元延寿太夫の次男。2000年、歌舞伎座『舞鶴雪月花』の松虫で初舞台。2005年、新橋演舞場『人情噺文七元結』の長兵衛娘お久、『喜撰』の所化で二代目尾上右近を襲名。2018年、清元栄寿太夫を襲名。本名の岡村研佑から“ケンケン”の愛称で親しまれている。

●右近さん 第三部『弁天娘女男白浪』弁天小僧菊之助役で出演中!
團菊祭五月大歌舞伎

期間 2022年5月2日(月)~27日(金)
第一部 午前11時~
第二部 午後2時30分~
第三部 午後6時15分~
会場 歌舞伎座
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/755

●右近さん 第二部『猪八戒』孫悟空役で出演!
六月大歌舞伎

期間 2022年6月2日(木)~27日(月)
第一部 午前11時~
第二部 午後2時15分~
第三部 午後6時~
※休演 6月9日(木)、20日(月)
会場 歌舞伎座
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/761

●右近さん 第一部『當世流小栗判官』、第三部『風の谷のナウシカ』に出演!
七月大歌舞伎

期間 2022年7月4日(月)~29日(金)
第一部 午前11時~
第二部 午後2時40分~
第三部 午後6時30分~
※休演 7月11日(月)、20日(水)
会場 歌舞伎座
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/766