十代の頃から詩人として活躍し、二十代半ばにして海外の映画祭で高く評価された中川龍太郎監督。現在、岸井ゆきの×浜辺美波共演による新作が公開中の彼がキャリアを振り返る【後編】では、先見の明のあるキャスティングやジブリパークの宣伝動画を手掛けたことでの自身の変化についても語ってもらいました。

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●優しい映画を作って、癒やされている

――中川監督がこれまで撮られてきた作品は、すべて優しさに溢れていると言えます。それは詩人としての時代からのものなのでしょうか?

 優しさというものを特別に意識しているつもりはないですが、詩作は自分にとってのセラピーのようなものだったと思います。それは映画制作においても近いかもしれません。自分の心があまりに殺伐としているので、それを癒やす物語を欲しているんですかね(笑)。

 優しく柔らかな世界がどこかにあると思って生きていかないと、生きているのって辛いじゃないですか。優しい人間だから、優しい映画が作れるわけじゃなく、むしろその逆な気がします。

――『走れ、絶望に追いつかれない速さで』『静かな雨』の仲野太賀さんや『わたしは光をにぎっている』の松本穂香さん、『蒲田前奏曲(第一番・蒲田哀歌)』の古川琴音さんなど、先見の明ともいえるキャスティングについては?

 俳優という存在については、まだまだ自分にとって勉強中です。作品ごとに一緒に仕事する俳優さんを決める理由も違いますが、基本はまず役があって、その役が持っている大事な部分とご本人が繋がる部分があるかどうかを、いちばん見ます。あまりにズレている場合は、僕の演出能力ではどうにもならないですから(笑)。

――また、21年にはHuluオリジナルドラマ「息をひそめて」も手掛けられました。

 短編のオムニバスドラマではあるんですが、是枝(裕和)組や河瀨(直美)組の一流の映画スタッフの方とご一緒させてもらったので、完全に映画を作る気持ちでやらせてもらいました。ひかりTVで配信されている新しいドラマ「湯あがりスケッチ」も映画と同じ気持ちで取り組むことができました。

●これまで以上に、マジックアワーにこだわった新作の撮影

――さて、最新監督作となった『やがて海へと届く』ですが、原作の魅力は?

 プロデューサーから原作を勧められたんですが、真奈とすみれ、2人のラブストーリーであると同時に、二人で一つである彼女たちが大人になっていく成長物語であることに惹かれました。最終的には「自分と接点があるか?」と「どれだけ自由度があるか?」という点で引き受けることを決めさせていただきました。

 そういう意味では、女性同士の『走れ、絶望に追いつかれない速さで』にも思えたんです。原作者の彩瀬さんは、映画としての脚色を理解してくださりつつ、率直な意見交換もしてくださり、本当に素晴らしい方でした。

――大学の同級生役を演じる真奈役の岸井ゆきのさんと、すみれ役の浜辺美波さんのキャスティングについては?

 真奈に関しては、生命の力強さを出せる人ということが重要だったので、彼女が出演した演劇「月の獣」を見たときに生命力を感じた岸井さんを選びました。すみれは一見、真奈とは対照的なんですが、同じような、心の壁を持っていそうな俳優さんにお願いしたかったんです。

 それを考えたときに、浜辺さんのことが思い浮かびました。お二方とも本当に才能のある俳優さんなので、実際の年齢差に関しては、関係ありませんでした。年齢ではなく、どう見えるかが、すべてですから。

――撮影で苦労された点について教えてください。

 今までも、光をどう捉えるかにこだわって撮ってきましたが、今回も見た目の印象以上に大変な撮影だったと思います。とにかく、1日にわずかな時間しかないマジックアワー(日没後、日の出前の薄明の時間帯)の撮影が多いですから。となると、自然とスケジュールがキツくなるという。また、東北ロケもありましたし、歌唱シーンも大変でした。

2022.04.08(金)
文=くれい響
写真=平松市聖