目指すはアル・パチーノと草刈正雄

――それは具体的に、どういうことでしょうか?

 幸之助はめちゃくちゃ平凡な人だし、物語を通して、別に大したことを成し遂げはしないんですよ。でも、そこが自分と似ているな、と。僕は何の不自由もなく、ごくごく平凡に育ったんですが、僕の周りにいるミュージシャンの人って、いろんなものを抱えていたり、波乱万丈な人生を送っていたりするんですよね。自分はなんとなくその違いみたいなものをいつも感じていたし、「平凡な人間がなぜ音楽をやる必要があるのか」と、僕の中の“熱い人”が責めてくるんです。でも、平凡な人生においても何かをやらなきゃいけないし、見えにくい敵が必ずいるんです。むしろそれを突き止めないとダメだ、と。つまり、今回は平凡な人間の秘めたる訴えを一生懸命演じました。そこにお客さんが共感できないことはないわけで、現に試写会でも笑う人と一緒に泣く人もいらっしゃるそうなんです。その話を聞いたときにはうれしかったですね。

――それでは今後、俳優としての目標であったり、憧れのような人はいますか?

 音楽でいったらジェームズ・ブラウンなんですけれど、僕は絶対なれない人に憧れるんです。なので、役者でいったらアル・パチーノと草刈正雄さん。明確な目標というよりは、ぼんやりデカいものの方がいいじゃないですか。理想をデカく持って、複雑な状況を受け入れる。でも、そんな憧れで楽しんで役者の仕事をやっていると、今回のように(父親役の)草刈さんと共演できたりするんですよ! 

――現在の状況をどのように捉えられていますか?

 いろんな監督さんに呼んでもらって、まぐれが続いているんじゃないかという状態ですね。ただ、僕は根が真面目なんで、どうしても役作りとかで、体を鍛えなきゃとか思うんですけど、じつはそっちの方が罠なんかじゃないのかな、と思うんですよ。「モテキ」のオム先生も、『婚前特急』のタクミも、今回の幸之助も、デブッとした体型から役をもらえたような気がするんですよ(笑)。

浜野謙太(はまのけんた)
1981年8月5日生まれ。神奈川県出身。3人編成のインストゥルメンタルバンド「SAKEROCK」メンバーとして、トロンボーン&スキャットを担当。また、自身がリーダーを務めるバンド「在日ファンク」ではヴォーカル兼リーダーを、「Newday」ではトロンボーンをそれぞれ担当。2006年、映画『ハチミツとクローバー』以来、俳優としても活躍する。

『体脂肪計タニタの社員食堂』
社長・谷田卯之助(草刈正雄)率いる健康機器メーカーの株式会社タニタは、世界初の体脂肪計を開発したものの、2代目副社長・幸之助(浜野謙太)ら太りぎみな社員が多かった。そこで肥満を克服した栄養士の菜々子(優香)を迎えたダイエット作戦が始まる。
www.tanitamovie.jp
(C) 2013「体脂肪計タニタの社員食堂」製作委員会
2013年5月25日(土)角川シネマ有楽町他、全国ロードショー

くれい響 (くれい ひびき)
1971年東京都出身。映画評論家。幼少時代から映画館に通い、大学在学中にクイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。その後、バラエティ番組制作を経て、「映画秘宝」(洋泉社)編集部員からフリーに。映画誌・情報誌のほか、劇場プログラムなどにも寄稿。

Column

厳選「いい男」大図鑑

 映画や舞台、ドラマ、CMなどで活躍する「いい男」たちに、映画評論家のくれい響さんが直撃インタビュー。デビューのきっかけから、最新作についてのエピソードまで、ぐっと迫ります。

2013.05.17(金)
text:Hibiki Kurei
photographs:Atsushi Hashimoto