「奈良にうまいものなし」といわれてきましたが、そんなことはありません。

 同じような観光地の古都・京都と比べられるから、数でもバリエーションでも太刀打ちできない。

 でも、おいしいお店やおいしいものは色々ありますし、奈良時代に生まれた発酵食品など奈良発の技術もある。

 新しい店や商品も次々に登場しています。

 最近、見つけたのが「大和飴」。

 ほんのり上品な甘さの小粒の飴で、奈良の野菜や特産品を使って、新しく開発されたもの。

 瓶入りでお土産にもぴったりだし、「ならBonbon」というネーミングもいい。

 さっそくお店を訪ねました。近鉄奈良駅から徒歩4分。

 もちいどのセンター街の起業支援施設「きらっ都・奈良」1階に、2018年7月7日(土)オープンした、小さな「大和飴」の専門店です。

「きらっ都・奈良」の建物に入ってすぐ、左手のガラス張りのお店は、たった2坪。

 店内の棚には瓶入りの大和飴がずらりと並んでいて壮観。オシャレでポップなラベルが印象的です。

 常時12種類で、材料の大和野菜や大和茶などのていねいな説明パネルもあります。

 大和飴の商品開発をしたのは、神谷優希さん。

 パリのリッツエスコフィエやベルーエ・コンセイユなどでフランス菓子を学び、2002年から奈良・西大寺でケーキ教室を開講(現在は休講中)。

 奈良女子大などと食材の研究、レシピ開発などを行ったり、食関連のイベントを企画する、お菓子工房「ドネードゥ ガトー」の主宰者でもあります。

  「奈良にはいいモノがいっぱいあります。それら、大和野菜やお茶など、奈良の風土が生んだ自然素材を使った飴ができたので、多くの人に知ってもらいたい。飴は世界共通ですから」と神谷さん。

 まず最初に開発したのは「片平あかね」でした。

 大和伝統野菜で、鮮やかな赤色が特徴の蕪は、三重県との境にある山辺郡山添村片平集落の20戸余りの農家が、自家用として栽培してきたもの。

 神谷さんは、片平あかねクラブの生産者と共に、種植え、間引き、収穫まで行ったのだそう。

 そんな片平あかねの美しい赤い色をお菓子で表現したいと思ったと言います。

「片平あかねの赤い色素に熱を加えると茶色くなってしまう。着色料を使わないで独特の赤い色を残した飴にするのに2年かかりました」

 その後、高取町を中心に栽培され、漢方薬としても用いられる「大和とうき」、天理市近郊の畑で収穫した自然栽培の柿の葉のお茶を使用した「柿の葉茶」、宇陀市の高原地帯にある坂本農園の無農薬栽培の「唐辛子」と、神谷さんは次々に飴を完成させます。

 「ほとんど趣味の域(笑)。今まではフランス菓子を作ってきましたが、生まれ育った奈良の地で自分にしかできない菓子を生み出したいと願うようになりました。奈良の自然が生み出す素朴な味を大切にしたい。香りを楽しんでもらいたいんです」とにっこり。

 古代に奈良に伝わった蹴鞠のまり、女の子のおもちゃである手まりをイメージして、小さな粒の愛らしい飴になったのだそう。

「すべての飴は、素材そのものの自然の味と色を生かして仕上げています。優しい甘さで口どけが良く、後口もすっきり。それぞれの生産者の真心を、一粒の飴で感じていただけたら」

 ラベルは、奈良・正倉院宝物に纏わる絵柄をアレンジしてデザイン。

 容器は、開け閉めしてもべたついたり、くっついたりせず、天然素材の繊細な自然の味と香りを逃さない瓶にして、携帯しやすさ、スタイリッシュなカッコよさにもこだわったのだそう。

2019.04.28(日)
文・撮影=そおだよおこ