「洲濱(すはま)」というお菓子をご存知でしょうか?

 浅煎りの大豆粉を砂糖と水飴で練り上げたお菓子「豆飴」。

 それを平安時代からのおめでたい紋様、浜辺の入り込みを意匠化した州浜形に作ったことから、「すはま」と呼ばれるようになりました。

 きなこの香ばしさと砂糖と水飴の甘みの、素朴な味わいの洲濱は、祝儀の席にふさわしいお菓子として、京都を中心に、多くの人に愛されてきたのです。

 かつて京都では、洲濱だけを作る専門店が何軒もあったそうです。最後の一軒、1657年創業の「御洲浜司 植村義次」が閉店したのは、2016年のこと。

 その「御洲浜司 植村義次」直伝の洲濱を作り、烏丸丸太町の同じ場所で「すはま屋」をオープンしたのは、芳野綾子さん。

 「父が茶道の家元教授で、毎年、初釜で『御洲浜司 植村義次』さんの洲濱を使い、客人をおもてなししてきたんです。小さい頃から、端っこを食べるのがとても楽しみでした」と芳野さんはにっこり。

 「自分も大好きで、父親のお茶席に欠かせないお菓子が作られなくなるのはさみしい」と、大学生だった芳野さんは、植村義次14代のご主人に習い、何度も作ってお墨付きをもらいます。

 ご主人にも勧められ、元の植村義次のお店を借りて2018年11月1日に開業。

 「ごく自然に、気がついたらお店をやっていた」と芳野さんは微笑みます。

 店の表の磨りガラスの文字も、店内に飾られた古い看板も、洲濱というお菓子の歴史を感じさせてくれるもの。

 でも、店内は、お茶室のリフォームを多く手がけている女性設計士によって、すっきり今風に。

 テーブル8席も設けられて、洲濱とコーヒーのマッチングが楽しめるオシャレなカフェになりました。

 「私自身、コーヒーが好きだったんですが、植村義次のご主人もコーヒー好きで、洲濱とコーヒーの相性がいいと教えてくださったんです」と芳野さん。

2019.04.14(日)
文・撮影=そおだよおこ