歴史的に世界の至宝をほしいままにしてきた英国には主要ミュージアムが数多く点在している。しかしその一方で独自の視点で蒐集された個人コレクションにしかないお宝も、また、あるのだ。


美術鑑賞というよりも
自らが静物画に紛れ込む場所

●Dennis Severs' House
(デニス・シヴァーズ・ハウス)

トップフロアはディケンズが生きたころのロンドンでの、貧しい4人家族の暮らしを再現。

 ここは普通の美術館とはちょっと違う。看板も呼び鈴もない家のドアを開けると、キャンドルの薄明かりが床板を照らし、部屋の奥から暖炉の火が燃える音と、むきたてのザクロの香りがする……東ロンドン、オールドスピタルフィールズ・マーケットの裏通りにあるデニス・シヴァーズ・ハウスは、美術鑑賞というよりも、自らが静物画に紛れ込む場所というほうがふさわしい。

こちらのテーマはスクルージ老人が暮らした寝室。

 1979年にこの家の家主となったカリフォルニア出身のアーティスト、デニス・シヴァースは、建築当初のこの地域の特徴を踏まえ、18世紀に移住してきたユグノー派の織物職人アイザック・ジャヴェイス一家と、その先の数世代が生活した家という設定で内装や調度品を設え、邸宅そのものを創り上げていった。

生前のデニス・シヴァース。この写真の1年後に帰らぬ人となった。

 一家とともに暮らすかのように、自らも電灯を一切使用せず、キャンドルの灯りで食事をし、職人の妻の寝室で眠り、1999年に51歳で他界するまでの20年間をこの家で過ごした。

居間には、さっきまでお茶を飲んでいたような跡が。
紳士達の上着が残されたスモーキングルーム。
キャンドルと果物の香りが漂うダイニングルーム。

 現在、館は故人の遺志の通り建築物保全チャリティが所有し、シヴァースと懇意にしていたデイヴィッド・ミルンがキュレーターとしてメンテナンスをしつつ、さらなるアイテムを加えている。

地下のキッチンは、今まで料理をしていたような臨場感がある。

Text=Kazuyo Yasuda(KRess Europe)
Photo=Atsushi Hashimoto
Cooperation=VisitBritain

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