歴史的に世界の至宝をほしいままにしてきた英国には主要ミュージアムが数多く点在している。しかしその一方で独自の視点で蒐集された個人コレクションにしかないお宝も、また、あるのだ。


極上の名画を蒐集したのは
あのビールメーカーの一族

●Kenwood House
(ケンウッド・ハウス)

【オールドマスターの名画が一堂に】
オランダやフランドルのオールドマスターによる名画が並ぶダイニングルームには、当時オランダ人画家でレンブラントの次に人気の高かったフランス・ハルスの作品(写真左下)も。絵のモデルである商船の船乗り、ピーター・ファン・デン・ブロッケはハルスの友人だっただけに、くつろいだ表情を見せている。
フランス・ハルス《ピーター・ファン・デン・ブロッケの肖像》1633年制作。

 北ロンドンの広大な公園ハムステッド・ヒースの北端に位置するこの邸宅は、どの地下鉄駅からも歩くにはやや遠いかもしれない。

 でも、バスを利用して、または緑の中を30分間歩いてでも、足を運ぶ価値のある美術品を備えている。

 現在のケンウッド・ハウスは、1700年ごろに建てられた家を1764年から10年の歳月を費やし、初代マンズフィールド伯爵の命を受けたスコットランド人建築家、ロバート・アダムが新古典主義様式に改築したもの。

【レンブラント後期の傑作自画像】
所蔵される絵のなかで、最も著名な作品のひとつが、レンブラントの自画像。レンブラントは生涯で数多くの自画像を残しているが、後期の自画像のなかでは最も優れた作品とみなされている。絵筆とパレットをたずさえた画家の真剣なまなざしは、経済的な危機に直面していた苦悩の時期を示唆している。
レンブラント・ファン・レイン《自画像》1665年頃制作。

 特にグランドフロアにあるライブラリーの半円形に張り出した天井は、アダムのイタリアでの滞在と、古代建築への関心から着想を得たもので、彼が手がけた建築のなかでも最高の秀作であるといわれる。

 所蔵品の一部であるレンブラント、フェルメール、フランス・ハルス、ターナー、レイノルズ、ゲインズバラをはじめとする63点に及ぶ名画は、1925年にケンウッド・ハウスを買い取った初代アイヴァ伯爵、エドワード・ギネスが残したコレクション。

 ギネスの名が示すとおり、アイヴァ伯はアイルランドのビール会社を営む一族の一員で、社長、会長も務めた。

エントランスホールにある初代伯爵夫人姉妹の肖像画。

 加えて、サフォーク伯によって蒐集されたヴァン・ダイクやウィリアム・ラーキンなどのコレクションも邸宅内に品良く収められ、見応えある美術館となっている。

 併設されたカフェレストラン「ブリュー・ハウス」では、朝食とランチ、そしてアフタヌーンティーも提供している。

【のんびり人混み知らずで、フェルメールを見学】
光の魔術師といわれるフェルメール。その展示会には通常多くの人が押し寄せ、ゆっくり見学できる機会は少ない。ここは平日、人出が少なくフェルメール後期のこの作品を心ゆくまで鑑賞できる、希少な場所だ。フェルメール人気が高まりつつある1889年に美術品蒐集に熱心だったアイヴァ伯爵がこの作品を購入した。
ヨハネス・フェルメール《ギターを弾く女》1672年制作。

Kenwood House
(ケンウッド・ハウス)

所在地 Hampstead Lane, Hampstead, London NW3 7JR
電話番号 020-8348-1286
開館時間 10:00~16:00(4月から10月 ~17:00)
休館日 無休
入館料 無料
https://www.english-heritage.org.uk/

Feature

名作がこっそり潜む
英国の邸宅美術館へ

Text=Kazuyo Yasuda(KRess Europe)
Photo=English Heritage
Cooperation=VisitBritain

この記事の掲載号

知られざる世界美術館の旅

CREA Traveller 2019年冬号

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定価1,110円 (税込)

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在は異なる場合があります。