パレルモの下町グルメのひとつ
“シチリアの馬車引き風パスタ”

 イタリア最南端・シチリア島。美しい青い海に囲まれた地中海最大の島の内陸部には、広大な丘陵地帯が広がっています。

シチリア内陸部の風景。果てしない広大な大地が広がる。

 西岸パレルモから東岸カターニャへは、約200キロ。島を横断する高速道路のおかげで約2時間半で到着できますが、内陸部の奥深くに位置する村々は、今も遠い。

 丘陵を縫うように走る国道で何時間もかかることもあるのだから、馬車の時代は何をかいわんや。物理的距離以上に、その時間距離は、果てしないものだったことでしょう。

パレルモから約90キロの内陸部に位置するパラッツォ・アドリアーノは、名作映画『ニュー・シネマ・パラダイス』のロケ地。パレルモからの所要時間は、車で約2時間。

 かつてシチリアでは、内陸部の農村と都市間の輸送を「カレット・シチリアーノ」が担っていました。

 それは、戦後間もなく車両輸送が一般的になるまで活躍した、極彩色の伝統馬車のこと。農作物や人を乗せ、シチリアの大地を行き交っていました。

伝統の「カレット・シチリアーノ」。赤や黄色の極彩色がデザインされているのが特徴だった(パレルモ民族博物館にて)。
現在は、馬を華やかに飾り付けた「ハレの日」スタイルでイベントや観光地などに登場することも。

 馬車を引くのは、カレッティエラたち。灼熱の太陽が照りつける真夏は、夕方以降に出発し、真夜中に働くこともあった過酷な仕事ながら賃金は安く、農家の支払いはときにジャガイモや塩漬けのアンチョビになることもあったとか。

 そんな懐具合では、長い道のりの休憩にオステリアに立ち寄る贅沢もできず、食事はもっぱら“家から持ってきたもの”だったそうです。

 乾燥スパゲティ、ニンニク、塩、オリーブオイル、ペペロンチーノ、乾燥したパン、小さな鍋とアルミのボウル、すりおろし器。要するに自家製の“腐らない素材”を携えて旅をし、休憩時には道路脇でパスタを茹でてひと休み。素材を生で刻んで、“その辺”の野生のプレツェーモロ(イタリアンパセリ)で香りをプラス。

 ただ空腹を満たすだけでなく、美味しく食べたい食いしん坊の馬車引きの工夫から生まれたのが、「スパゲティ・アッラ・カレッティエラ・シチリアーナ(シチリアの馬車引き風パスタ)」なのです。

1900年代初頭から存在すると言われる郷土パスタ「パスタ・アッラ・カレッティエラ・シチリアーナ」。パレルモの下町トラットリアのメニューにも並ぶ。オリジナルレシピの仕上げはすりおろした乾燥パンだが、今の主流はペコリーノチーズ。

 シチリアの郷土パスタといえば、揚げナスとトマトソースの「パスタ・アッラ・ノルマ」や、イワシと野生のフェンネルの香り高い「パスタ・コン・サルデ」などが有名ですが、モチモチの極太パスタにシャキシャキのプレツェーモロ、ペペロンチーノの辛味と生ニンニクの風味を加え、極上シチリア素材をシンプルに組みあわせた「スパゲティ・アッラ・カレッティエラ・シチリアーナ」も地味ながら、後を引く美味しさです!

シチリアの市場でも売られるカレッティエラ・ミックス。パスタ以外に、ミネストローネや魚、肉料理、なんでも使えて便利な一品。見つけたら、即買いがオススメ。
“すだれニンニク”をぶら下げた農産物の直売は、シチリアの街道沿いでしばしば遭遇する。かつては馬車で運んでいたのだろうか?

 「スパゲティ・アッラ・カレッティエラ・シチリアーナ」は作り方も簡単! レシピをご紹介します。

文・撮影=岩田デノーラ砂和子