伝統菓子のルーツは修道院
あのカンノーリも……!

 カンノーリ、カッサータ・シチリアーナ、フルッタ・マルトラーナ……。シチリアに伝わる伝統菓子。

 昨今、日本にもシチリア菓子専門店が登場し、またシチリア料理専門店やイタリア展などの催事でもお目にかかる機会が増えてきたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか?

左:シチリア伝統菓子の代表のようになっている「カンノーリ」(イタリア語では単数形Cannoloカンノーロ、2個以上でCannoliカンノーリとなる)は、バディア・ヌオヴァ修道院の謝肉祭の伝統菓子。
右:知られざるパレルモ伝統菓子「フェッダ・デル・カンチェッリエレ」は、カンチェッリエレ修道院発。
サンタ・テレーザ修道院の「カッサータ・フレッダ」(カッサータ・シチリアーナ)。果物の砂糖漬けを飾ったスタイルは、19世紀末のパレルモ人菓子職人によるもの。奥は、「ミンネ・ディ・ヴィルジ二」(処女の乳房の意味)でヴェルジニ修道院の得意菓子。なお、島西部の美しい村サンブーカ・ディ・シチリアでは、1725年にヴィルジニア・カサーレ修道女による発案とされている。
アーモンド・パウダーで作る「フルッタ・マルトラーナ」。サンタ・カテリーナ教会向かいにあるマルトラーナ教会併設の修道院が発祥の「万霊節・死者の日(11月2日)」のお菓子。シチリア王や枢機卿の訪問があった時、落葉した木々を飾るために発明されたと言われている。

 羊のリコッタ・クリームをベースに、アーモンドや柑橘類の砂糖漬けなど、シチリア島の名産品をたっぷり使った甘くロマンチックな伝統菓子。ときに脳に響くほどの甘さに驚かされ、グロテスクなほど華美なデコレーションに圧倒される。

 素朴さと複雑さが混沌と絡み合い、独特な印象を醸すシチリア伝統菓子は、まるでシチリアそのものを体現しているかのようです。

 おしゃれなスイーツがブームになっても、本場のシチリア人にとっては、いつも恋しいソウルフード。21世紀の今もなお、老若男女に愛され続けています。

 そんなシチリア伝統菓子の多くは、実は、修道院が発祥。

 季節の宗教行事のために、また貴族の夕食会のためにオーダーで作っていたそうですが、詩人で劇作家のジョバンニ・メーリ(1740-1815)の「Li cosi duci di li batii(修道院のお菓子)」には、1700年代後半のパレルモの各修道院には、すでにそれぞれが考案した、また得意とする特徴的なお菓子があったと記されています。

スティンマーテ・ディ・サンフランチェスコ修道院のお菓子「スフィンチエ」(スポンジの意味)。修道女は、貴族階層出身者のみだった。地味だがフワフワして高貴な味。

 有名な修道院同士では量産を競うほどで、「修道院の脇を通ると、良い香りで恍惚となった」とか。

 お菓子作りに励んでいたのは、女子修道院。祈りを捧げるデリケートな手は、お菓子作りにも適していたのかもしれません。

 民俗学者ジュゼッペ・ピトレ(1841-1916)によれば※、「1789年、パレルモの人口は18万4千人。教会は152軒あり、修道院は77軒(うち女子修道院39軒)で、修道士・修道女は合わせて7,000人以上」とあります。

 ざっくりと修道僧の男女比を半々とすれば、約50人に1人が修道女。結構な人数ですね。当時の街の規模(現在の旧市街エリア)からすれば、かなりの確率で良い香りに遭遇したことが窺えます。

 しかし、残念ながら今のパレルモには、良い香りを漂わせる修道院はもうありません。

 伝統菓子作りはパスティチェリア(菓子専門店)の専売特許のようになり、地元の人でさえ、由来を知ってるような知らないような……、薄い記憶となりつつありますが、このたび、各修道院に伝わるレシピを正しく再現したシチリア菓子店が登場。地元のドルチェ・ラバーの話題を呼んでいます。しかもその店は、なんと修道院の中!

※「La vita in Palermo cento e più anni fa(100余年前のパレルモの暮らし)」(1904年)

文・撮影=岩田デノーラ砂和子