「描くことは生きること」
いま、近藤亜樹の絵画に出逢う

 大好きな人の顔や、旅先で見つけたすてきな光景を留めたいなら、スマホを取り出しさっと撮影すれば事は足りる。とうにそんな時代だというのに、人はいまだ手間をかけて絵を描いたり、それを眺めて悦ぶ事に飽いたりしない。なぜなのか。

 謎を解くカギは、画家・近藤亜樹の作品にあるかもしれない。2010年代に入ってすぐ、まだ美大生だった時期から絵画を発表するようになった彼女は、以来精力的に、あまりに精力的に活動を展開してきた。

 作品を生み出すペースの速さは驚異的で、一枚ずつに対する力の入れようもすごい。ひと筆ずつに意思と感情がのっているのは見て明らかで、どの絵も完成するやいなや生命を得て、観るたび画面全体がうごめいているかのように感じられる。

「描くことは日常であり、生きることそのもの」

 であると、近藤本人はつねづね口にする。彼女にとって絵画とは、自分の外界にあることがらを記録しておくための便利な装置なんかじゃない。そうではなくて、自分が日々感得したものや移ろっていく感情を、つまりは自分の「内側」を、余すところなく吐露してさらけ出すためのもののよう。

 人は本来、かくも表現をせずにはいられない生きものなのだ。近藤は生来、そうした人間の本性にあくまで忠実な気質の持ち主ということなんだろう。そして描くことこそ、汲めども尽きぬ人の表現への欲求を、最もよく満たしてくれる行為である。近藤の絵がそう教えてくれる。

 東京のギャラリー、シュウゴアーツで、近藤亜樹の個展『あの日を待つ明日を待つ今日』が開かれる。生命の持つ力感と、それが受け継がれていくことの不思議さを感じさせる、強烈なイメージの数々が会場には幾枚も並ぶ。

 開催前に本人より話を聞くことができた。今展の作品は、

「過去と未来の記憶が今と混ざって現れました」

 とのこと。いったいどのように描いていったのかと問うと、

「妊娠中の大きく膨らんだお腹を抱えながら地べたに座って描きました。お腹の中に人間が入っているので、肉体的にも体力的にも違うので長時間は描けませんが、感情は激しく動いていましたし、いつもより描ける量が少ないので一枚ずつが大きく重く感じました」

 そう、彼女がこれらの絵を描いたのは、まさに自分自身の中に生命を宿していた時期だった。描くことを生の営みと一体化させた表現者の魂に、直に触れてみてほしい。

 描くことで世界を肯定し続けるアーティスト近藤亜樹が新作を披露する個展。その身にもうひとつの生命を宿したのち、最愛の人を失う経験をしながらも、絵筆を持ち描いた絵画群を観ることができる。

近藤亜樹 『あの日を待つ明日を待つ 今日』

会場 シュウゴアーツ(東京・六本木)
会期 開催中~2018年9月29日(土)
料金 入場無料
電話番号 03-6447-2234
http://shugoarts.com/

2018.09.15(土)
文=山内宏泰

CREA 2018年8・9月合併号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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