3年の修復・改修を経ていよいよ公開
2017年11月16日、バルセロナにまたひとつ新しい見どころが誕生しました。ガウディ作のビセンス邸(カサ・ビセンス)です。
ガウディが手がけた住宅としてはいちばん古いこの建物は、名前の通りビセンス家の夏の別荘として1883年~1885年にかけて建てられたもの。
その後、所有者は何度か変わりましたが、いずれも個人宅として使用されていたため、これまで一般公開はされていませんでした。2014年に現在の所有者であるモーラ銀行の手に渡り、3年の月日をかけて全面的に修復・改装されて今回のオープンに至ったのです。
右:天井・壁面のディテール。
建物は、長い年月の間にさまざまな増改築が繰り返されてきましたが、今回の修復ではできる限りガウディがデザインしたオリジナルの状態に近づけるよう、細心の注意と努力が払われたそうです。
いちばん大きなポイントは、邸宅としての見学スペースと、それ以外のレセプションやクローク、建築に関する展示室やギフトショップといったサービス用スペースをはっきり区別していること。
ガウディが手がけていない1925年に増築された北東側半分は、外壁を除いて完全リフォーム。また、南西側半分の屋根裏と地下室(それぞれ使用人部屋、倉庫として造られていたもの)の部分も同様にリフォームされ、合わせてサービス用スペースとして使われています。これらの部分は非常にシンプルな白壁とフローリングでまとめてあり、その分、ガウディがデザインした部分とのコントラストが際立つように考えられています。
では、メインの見どころである邸宅部分を見ていきましょう。玄関ホールを抜けるとすぐに広いダイニングルームがあります。ここで特に目を引くのは、壁や天井の細かい装飾でしょう。壁の上部にはグリーンリーフのレリーフ、柱上部には愛らしいカーネーションのペイント、天井の梁と梁の間には、オリーブの枝から実がこぼれんばかりとなっています。また、テラスへのドアの周囲には空を飛ぶ鳥たちが描かれ、屋内から屋外へと客人を誘っているようです。
ダイニングルームの奥には、こぢんまりとした喫煙室がありますが、こちらはまるでグラナダのアルハンブラ宮殿を思わせる造りです。天井の鮮やかな青色が印象的ですが、実は今回の修復前はクリーム色に塗られていたとのこと。さまざまな検証の結果、オリジナルの色が判明し、ベースは青、ディテールに緑とゴールドを配したものに修復されました。
イスラム建築を模した複雑なデザインのこの天井、漆喰で作られているように見えますが、実は紙粘土の一種を使っているとか。当時の革新的な技法を駆使して作られており、そのデリケートな素材ゆえに修復には大変な手間がかかったそうです。
文・撮影=坪田みゆき