多方面から研究していくと
音楽と一体化できる瞬間が訪れる

音楽だけでなく芸術・文化全般に深い洞察をみせる。早熟な22歳。

 ひとつひとつ積み上げてきたことが、現在の自分の演奏に生きている。彼と話すたびに感じるのは、自分で学ぶべきことをつねに探し、積極的に理解しマスターしていくパワフルな姿勢だ。

「自分が勉強しなければならないことを探すプロセスが楽しいんです。基本的には楽譜と向き合うことで、曲の世界観を把握してニュアンスを見つけていきます。楽譜だけでなく、作曲家の手紙や伝記も読みますし……多方面から多角的に曲にアプローチしていくんです。そうやって準備していくと、音楽と一体化できる瞬間があるんですよ」

 岡本誠司のレパートリーは広い。バッハ国際コンクールでも古楽奏法でアピールする参加者が多い中、彼はモダンと古楽を柔軟に使い分け、ハイレベルの技術で多彩な表現を展開した。自分の可能性を限定せず、様式の違う多彩な作品に飛び込んでいく姿勢は、冒険的といっていい。

「ヴァイオリンにはたくさんの名曲があって、古いものも新しいものも西のものも東のものもあるので、選り好みするのはまだ早いかなと(笑)。片方を学ぶことで反対側の学びも充実しますからね。そもそも音楽には答えがないですし、その上作曲家はとうの昔に亡くなっていることが多く『どうしたらいいんだろう』というところから毎回始まっています。協奏曲などでは、ときにソリストとしてオケを支える立場をとることもありますしね。

 最終的には、その人の持っている人間力がいいふうに働いたときに音楽のパワーが出るのだと思います。その点では、小さい頃から大人の方たちと共演することが多かったので幸運でした。音楽を深めるために、たくさんの人に出会いたいし、経験をしていきたい……つねに自分を豊かにしていきたいと考えてやってきました」

2016.10.26(水)
文=小田島久恵
撮影=山元茂樹