BOOKS INTERVIEW 本の本音

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運命的な愛の行方を追う究極の恋愛小説
平野啓一郎の『マチネの終わりに』

どう未来を選ぶかで過去は変わる

今月のオススメ本
『マチネの終わりに』 平野啓一郎

38歳の天才クラシックギタリスト・蒔野聡史と、海外の通信社に勤める40歳のジャーナリスト・小峰洋子は強烈に惹かれ合い……。新聞とウェブという2つの媒体でほぼ同時連載された本作。読者の声がSNSで発信されたり、ネット上で展開を予想する『マチネSkype会議』が開かれたりと、リアルタイムでも大きな反響を呼んだ。
平野啓一郎 毎日新聞出版 1,700円
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 運命的な愛の行方を追う渾身の恋愛小説『マチネの終わりに』。これ以上自分に合う相手はいないと感じながらも、自立し成熟した大人である蒔野と洋子は、互いのことを慮りすぎてすれ違ってしまう。その展開が切なすぎて、身悶えするほど。

「ふたりの歯車がずれていくに当たって、本当にどうしようもなかったというすれ違い方にはしたくなかったんです。『どちらかがもうちょっと何かしていたらうまくいっていたのに』と、物語世界に入り込んで、ふたりに詰め寄りたくなるようなままならなさをストーリーに込めたかった。というのも、僕らが後悔することってだいたいそういうことだと思うんです。人は何もしなかったときほど自分を責めて、未練を残す」

 本書を貫いているのは、蒔野のこんな言葉だ。〈人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。(略)過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないですか?〉

「過去は変えられないものだと言われますが、選んだ未来によって、過去の意味は変えられるし、変わると思うんです。恋愛はだいたいそうでしょう? ひどい別れ方をすると、楽しかったころの思い出も黒歴史になるとか(笑)。実際には誰でも、そういう経験をしている。過去にこんなことがあったからいまの自分はこうなんだという因果関係の牢獄に閉じ込められたままでいる必要はなくて、未来をどうしたいというところから、いま何をすべきかを考えてみてもいい。311やテロの時代に書いた小説だ、という意識はありました。どうしてあの人はあそこにいたのかとか運命としかいえない悲劇、つまり自由意志ではない領域で、運命と意志とがせめぎあうのが人生だということを、21世紀の状況を踏まえて書いてみたかったんです」

 小説を書くときはいつも、クライマックスのシーンをあらかじめ決めておくのだという平野さん。

「僕は小説でも音楽でも終盤に向かってぐーっと盛り上がっていく感じが好きで、強烈に感動するような光景が浮かんできたときに、じゃあそこに行き着くまでどんな運命をたどってきたんだろうと、遡って全体を構成するんですね。古いイタリア映画の『ひまわり』は、去って行く男を見つめるソフィア・ローレンのあの泣き顔のために作られたのではないかと思うんですが、ドラマチックなラストを目指しました」

 そのカタルシスをぜひ味わって。

(C)瀧本幹也

平野啓一郎(ひらのけいいちろう)
1975年愛知県生まれ。京都大学法学部卒。1999年、「日蝕」で芥川賞受賞。『葬送』『決壊』『ドーン』『透明な迷宮』など著書多数。

<この記事の掲載号>

CREA 2016年7月号

食べて遊んで、いい気持ち!
明日のためのハワイ

定価780円

2016.07.02(土)

文=三浦天紗子

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