旬を生かし、心を持ってもてなす

 特に素晴らしかったのは、「凍り豆腐とウニの煮椀」である。

凍り豆腐とウニの煮椀。

 凍み豆腐とウニという、抱き合いそうもない二つの食材が、なにごともなかったかのように、自然に寄り添い、互いの持ち味を共鳴させている。

 ウニは決して出過ぎずに、豆腐の持つ優しい甘味と静かに馴染み、互いが互いを敬愛しあっている。

 最近の日本料理では、うすい豆の豆腐の上にウニが「どうだ」といって、乗せられていることが多い。

 確かには美しく、見栄えはいいが、食べてみればウニの味が勝ちすぎて豆腐の持ち味が消え、かつ豆腐とウニの味が合っていない。

 しかしこの料理は、適妙なウニの加熱と、ウニを豆腐の下に置くことによって、凍み豆腐とウニが見事に抱擁して、見事な美味しさを生み出している。

 ウニがてれんと舌に甘え、豆腐が湯葉のようにとろんと崩れて甘く、ウニと溶け合う。
そこへ青柚子が香って、味を締め、季節を漂わす。

支笏湖のチップ(ヒメマス)と苫小牧のオヒョウのお造り。

 時折思う、日本料理はどこへ向かうのかという不安を払拭してくれる、これが「日本料理」ではないだろうか。

 日本中で京料理が出される中、地の食材を見つめ、高級な食材も安価な食材も同等に扱い、生かす。

 この一皿こそ、「旬を生かし、心を持ってもてなす」という日本料理の心が集約された料理だった。

胡麻鯖すし。

味道広路(あじどころ)
野に山に、川や海、水、太陽の陽射し、すべての自然の恵みを尊重し、四季折々の新鮮な素材を、作りたての味、色、香り、食感を皆様に楽しんで頂きたいと思います。 先人の知恵と郷土の温もりを大事にしつつ、素朴さと、僕の個性を融合して、お料理をつくり、心よりおもてなし致します。(ホームページより)

所在地 北海道夕張郡栗山町字湯地40-35
電話番号 0123-73-6677
営業時間 昼 12:00~14:30、夜 17:30~21:00
料金 昼 3,000円~(夜のメニューも承ります)、夜 5,000円~10,000円位 ※別途消費税、サービス料10%
定休日 火曜、第2水曜
アクセス 札幌からバス(高速くりやま号)又はJRで栗山駅(室蘭本線)に到着。 栗山駅よりタクシーで5分、徒歩20分。 車の場合は道央自動車道、江別東インターから20分、岩見沢インターから20分
URL http://ajidocoro.com/
※未就学のお子様は不可、クレジットカード利用不可

マッキー牧元(まっきー・まきもと)
1955年東京出身。立教大学卒。(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く。「味の手帖」 「銀座百点」「料理王国」「東京カレンダー」「食楽」他で連載のほか、料理開発なども行う。著書に『東京 食のお作法』(文藝春秋)、『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)、『ポテサラ酒場』(監修/辰巳出版)ほか。

Column

マッキー牧元の「いい旅には必ずうまいものあり」

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く「タベアルキスト」のマッキー牧元さんが、旅の中で出会った美味をご紹介。ガイドブックには載っていない口コミ情報が満載です。

2016.07.07(木)
文・撮影=マッキー牧元